日本から世界的なプラットフォーマーは生まれるのか? 〜 B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo オープニングセッション「ネット企業の成長はどこに向かうのか?」イベントレポート

竹田匡宏

札幌で開催中の「B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo」のオープニングセッション「ネット企業の成長はどこに向かうのか?」のイベントレポートをお届けします。

スピーカー紹介

このセッションでは、グローバルな市場の状況をふまえた「テクノロジーの現状と未来」について、以下のメンバーが議論を交わした。

スピーカー:佐藤光紀氏(セプテーニ・ホールディングス代表取締役)、真田哲弥氏(KLab取締役会長)、堀江裕介氏(dely代表取締役)、國光宏尚氏(gumi代表取締役)、舛田淳(LINE取締役CSMO)

モデレーター:渡辺洋行氏(B Dash Ventures代表取締役社長)

GAFAのようなプラットフォームが日本から生まれるのか?

冒頭に、KLab取締役会長の真田哲弥氏(以下真田氏)が「GAFAを含めた海外企業と日本企業が日本国内で平等に扱われていないのではないか?」と問題提起をした。

「税制、法制度」を含めて海外企業の方が有利な節がある。外資系の企業であれば、日本国内で収益をあげたとしても日本に納税せず、積極的に他事業や他企業に投資を行うことができる。その現状を打破するために、新経済連盟として政治家の方々にロビー活動をし続けていると真田氏は語った。

dely代表取締役の堀江裕介氏(以下堀江氏)は日本からGAFAのようなプラットフォーマーが生まれるのは厳しいのではないかと語った。例えば、メッセンジャーやワッツアップなどをスタートアップとして新しいチャットアプリを日本で作ろうとしていた企業が「そのサービスは出会い系の温床にはならないのか?」と問われたりするケースが多い。一方Facebookは今後マッチング機能をプラットフォーム上で導入するにも関わらず、日本はこの件に関して規制をすることができない状況だ。そういった点が日本が世界的なプラットフォームを作るのに不利な状況の1つだと話した。

gumi代表取締役の國光宏尚氏(以下國光氏)は、日本からプラットフォームを生み出すための組織編成をどうすべきかについて言及した。まずは、日本でスタートアップを立ち上げ、中国人を日本で雇い、アメリカなどグローバルを含めて展開していくことが重要。中国には特にエンジニア領域で非常に優秀な人材が多い、そんな彼らが、日本で働いてくれるのであれば、ガンガンと誘うべきだと語った。

新たな「OSやデバイス」が生まれると、次なるプラットフォーマーが誕生する

セプテーニ・ホールディングス代表取締役の佐藤光紀氏(以下佐藤氏)は次なるプラットフォーマー誕生にも大きく影響をすると考えられる現在の米中の摩擦について語った。

OSやハードウェアの変化がなければ、新しいプラットフォームは生まれにくい。そして、今、米中摩擦が起こっているのは、中国が今までアメリカが中心に作り上げてきたOSやハードウェアのエコシステムに従うのではなく、中国が自らエコシステムを作り上げていくから起こっていると語った。

Ear Deviceは来るのか?

また新しいハードウェアに関して、来ると言われながらもまだまだ発展途中であるVR/ARのハードウェアのジャンルと比較し、Ear Deviceについての議論が登壇者の間で盛り上がった。

堀江氏は「ハードウェアとしてVRやARの時代が来ると言われ続けてきたが、実際には「Airpods」やその他Bluetoothイヤホンなど「聴くデバイス」の方が盛り上がってきていると指摘した。私たちははスマホの画面を見ている時間よりも、音声に触れている時間の方が長いのではないかのではないかと語った。

Ear Deviceに関して真田氏は「出力という部分では発達しているが、入力、つまり音声認識の部分では指で手軽に操作できるスマホなどに比べてUIがまだ発達していないのが課題だ」と話した。

LINE取締役CSMO舛田氏はEar DeviceのUIについ、音声認識はすでに進んできていると主張。まだまだ日常会話のようにできないが、たとえばコマンドを実行させるような使い方であれば十分使えるレベルにきていると話した。さらにEar Deviceの普及によって音声コンテンツは音楽以外の要素でどんどんと成長して行くだろうと語った。

そしてEar Deviceからスマートスピーカーの話題に。「スマートスピーカーは海外に比べなぜ日本でまだまだ普及しないのか」というB Dash Ventures代表取締役社長の渡辺氏(以下 渡辺氏)の質問に対しては「海外ではスマートスピーカーは家電の操作と音楽についての分野で広がっている、しかし日本では家電がまだまだネットに繋がっていないし、音楽のサブスクリプションも最近盛り上がってきたところ」だと語り、スマートスピーカーが世界に比べて日本が遅れをとっている課題を示した。

インターネットは2つに分断される

次にインターネットは2つに分断される未来について議論が交わされた。アメリカのインターネットと中国のインターネットについてだ。

渡辺氏は中国のプラットフォームが拡大して、中国国内から海外に拡大して行った際、その現状も非常に高いプラットフォーム手数料が、私たちが参入するときに障壁や問題になると話した。

國光氏は、「これからインターネットが2つに分断し、そして中国は今後もっと成長しアメリカと並ぶ国になる。だから日本は、そのような未来にどのように対応して行くか、にいまから考えていなければならない」とは語る。やり方によってはこのように2つの摩擦が起こることは日本にとって非常に大きなビジネスチャンスにもなるだろうと。

インターネットの広告モデルは限界がきているのか?

現状のインターネットメディアや広告の未来について、渡辺氏は既存の広告モデルでは今後はやっていくのが難しくなるのではないか、そろそろ限界がきているのではないかと指摘した。だから昨今インターネットメディアは広告ではなくD2C(Direct to Consumer)領域に進出してきていると。

それに対して、堀江氏は「孫さんの社内でGAFAは可愛いと思えと言っています。なぜなら広告収益はオフライン領域に比べるとちっぽけなものだと」孫正義氏のエピソードを語った。

そして堀江氏は確かにWebメディアは1500MAUがメディアの限界だと話した。Verticalメディアとしては、今後Eコマース領域とサブスクリプションモデルでビジネスモデルを設計していかなければならないと考えていると語った。

一方舛田氏はLINE社では、「オンラインを超えていこう」と社員に向けて話しているとコメント。ようやくインターネットが発展してきたことによって、人々がデジタルとの接点が増えてきたので、事業者はビジネスチャンスが多いオフラインにサービスを移すことできるようになったと語った。

記者のまとめ

これからの日本のネット企業の成長には、米中貿易摩擦とそれに関連したインターネットやプラットフォームの分断がもたらす変化を的確に捉えて、受け入れた上で戦略的にビジネスを展開していくことが重要のようだ。

この変化のタイミングは日本のネット企業にとっても世界で成長する大きなチャンスを秘めている。それを認識できるセッションだった。

 

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

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