イーサリアム、そしてイーサリアムキラーとは?

千野剛司

『仮想通貨とWeb3.0革命』試し読み Vol.1

米大手暗号資産取引所「Kraken(クラーケン)」の日本法人 Kraken Japan 代表である千野剛司氏が、先日初の著書『仮想通貨とWeb3.0革命』を上梓した。古くから金融業界に身を置いてきた千野氏独自の視点で、これまでの暗号資産市場の歴史や、DAO、NFT、ステーブルコインほか、仮想通貨とWeb3をめぐる最新の動向を解説した書籍だ。千野氏は書籍を通じ、かつての仮想通貨大国だった日本がこれから復活の道があるのか、その課題や可能性について語っている。

「あたらしい経済」は本書の出版を記念して書籍の一部を「試し読み」として公開する(全3回)。今回は「第4章 NFTと仮想通貨の新勢力」の「1 受け皿としてのブロックチェーン」の内容を公開する。

第4章 NFTと仮想通貨の新勢力
「1 受け皿としてのブロックチェーン」より

なぜイーサリアムキラーが台頭しているのか

誤解を恐れずに言えば、2021年以前、仮想通貨といえば大抵はビットコインのことを意味していました。2018年に始まった仮想通貨の世界的な低迷期を指す「冬の時代」で、ビットコインの仮想通貨市場全体に占める時価総額の割合(ドミナンス)は50%以上を常に維持し、ほとんどの期間で60%を超えていました。

2021年3月を過ぎたあたりからビットコインのドミナンスが徐々に低下し、50%を下回るようになりました。潮目が変わったのは、2021年3月11日、ビープル(Beeple)というデジタルアーティストがNFT作品を史上最高額となる約6900万ドルで落札したニュースでした。

先述の通り、ビットコインはブロックチェーン上にアプリを乗せるのに適した構造にはなっていません。NFTのブームとともに存在感を発揮し始めたのは、イーサリアムをはじめとするNFTの受け皿となるブロックチェーンなのです。2021年は、ビットコイン以外の領域で大きな革新が起きた年といえるでしょう。

2021年末に同年に起きた出来事について、長年、仮想通貨業界を見てきたブロック・タワー・キャピタルのアリ・ポール氏は、次のようにまとめています。

「現在のサイクルは、ビットコインとは関係ない仮想通貨のユースケースが正当化されることで始まったサイクルです。以前のサイクルでは、セクター別の専門家になる意味はほとんどありませんでした。
 4年前、DeFiやNFTはほぼ存在感がなく、ビットコイン以外の全ての分野は、意味ある形で存在していませんでした。(中略)現在、あなたはDeFiのイールドファーマー(流動性を供給して利息を獲得する人)にもなれるし、NFTの投機家にもなれるし、それぞれにおいてフルタイムの仕事に就くこともできます。そして、それぞれの分野に関する情報を追うために、個人ではなくチームが必要になりました」

本章では、NFTの受け皿となるブロックチェーンの争いについて話します。現在、NFTのプロジェクトは、ほとんどがイーサリアムを基盤としています。背景にあるのが、イーサリアムの最大の功績ともいえる、スマートコントラクトです。

スマートコントラクトは、あらかじめ決められた契約をブロックチェーン上で自動的に実行する仕組みです。スマートコントラクトのおかげで、イーサリアムのブロックチェーン上で、仲介業者なしに成り立つ分散型アプリケーション(dApps)の開発が進みました。イーサリアムがNFTで大きなシェアを獲得している理由は、スマートコントラクトの先駆けである点が大きいのです。

しかし最近は、イーサリアムのライバルである「イーサリアムキラー」と呼ばれるブロックチェーンが台頭してきているのです。具体的には、ソラナやアヴァランチ、カルダノといった新興ブロックチェーンです。

ブロックチェーンのトリレンマ

なぜイーサリアムに逆風が吹いているのでしょうか? そこには、「ブロックチェーンのトリレンマ」問題が深く関わってきます。これは、イーサリアム創設者ヴィタリック・ブテリン氏が指摘した問題で、「スケーラビリティ(規模の拡張性)」と「セキュリティ(安全性)」、そして「デセントラリゼーション(分散性)」の3つ全てを同時に成立させることは難しいことを意味します。

ブロックチェーンのトリレンマ

例えばイーサリアムは、特定の個人や企業ではなく世界中に散らばるコンピューター(ノード)によって管理されていることから「分散性」はクリアしていると考えられます。

イーサリアムにはヴィタリック・ブテリン氏を中心とするイーサリアム財団が代表的な組織としてありますが、仮にそれがなくなったとしてもイーサリアムは存続すると見られており「十分に分散している」と考えられています。

また、イーサリアムのネットワークを乗っ取ることは極めて困難であることから、「セキュリティ」もクリアしています。マイニングに必要なコンピューターの計算力を示すハッシュレートは世界中に分散しており、悪意のある個人やグループがネットワーク全体の51%以上を支配し(「51%攻撃」と呼ばれる)、不正な取引を行う可能性は極めて低いです。

取引の「渋滞」をどう防ぐか

しかしイーサリアムは、スケーラビリティに課題があります。スケーラビリティとは、いわば、増え続けるユーザーやデバイスをサポートするブロックチェーンの「容量」を指します。取引記録を保管するブロックのスペースには限度があります。

そこに利用者やプロジェクトが殺到すれば、取引の「渋滞」が発生します。そして「渋滞」を回避するためより高い手数料(ガス代)を払うことになります。要するに、NFTやDeFiブームを受けてイーサリアムがその受け皿として人気が出すぎたことで、高いガス代を払わないとイーサリアムを使えなくなってしまったのです。

そうしたイーサリアムの状態に嫌気が差した多くの開発者や利用者が、他のブロックチェーンに移るという現象が発生しています。

イーサリアムの代替となるブロックチェーンには、いろいろな呼び名があります。「イーサリアムキラー」の他、「レイヤー1」と呼ばれることもあります。

ビットコインのライトニング・ネットワークを説明した箇所でレイヤーについて解説しましたが、実際にブロックチェーン上に取引記録を残すレイヤーがレイヤー1であり、レイヤー1の外で一時的に記録を保管する場所がレイヤー2です。イーサリアムと真っ向から競争をする相手は、当然、レイヤー1に該当します。

また、「第3世代ブロックチェーン」と呼ばれることもあります。ビットコインを第1世代のブロックチェーン、イーサリアムを第2世代のブロックチェーンとすると、先に触れたソラナやアヴァランチ、カルダノは第3世代のブロックチェーンと位置づけられ、主にスケーラビリティ問題の解決に注力しています。

ビットコインに迫るイーサリアムとイーサリアムキラー

ビットコインの支持者には怒られてしまいますが、ビットコインを折り畳み式の携帯電話、イーサリアムを初期のアイフォン、ソラナなどを最新のアイフォンに例える人もいます。

さらに、当然、イーサリアムキラーもイーサリアムと同じようにスマートコントラクトを持っていなければなりません。スマートコントラクトとは、あらかじめ決められた契約をブロックチェーン上で自動的に実行する仕組みです。このため、イーサリアム対イーサリアムキラーの争いを「スマコン戦争」と呼ぶ人もいます。

代表的なイーサリアムキラー

どこまでを「イーサリアムキラー」と考えるか、定義があるわけではありません。また、技術革新とともに新たなイーサリアムキラーが誕生する可能性もあります。本書では、2021年末時点で、米国の仮想通貨投資会社ギャラクシー・デジタルが注目するイーサリアムキラーのうち、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、ポルカドット(DOT)、アヴァランチ(AVAX)を紹介します。

ソラナ(SOL)

ソラナは2020年3月に誕生し、2021年に飛躍的に成長したブロックチェーンです。取引スピードとガス代が安く、さまざまなアプリの開発が行われています。

とりわけ宇宙を舞台にプレイして仮想通貨を稼ぐ「プレイ・トゥ・アーン」のスターアトラス(StarAtlas)や歩いて仮想通貨を稼ぐ「ウォーク・トゥ・アーン」のステップン(stepn)は、日本でも注目を集めています。2021年の価格上昇率は、9446%でした。

ただ、「スケーラビリティ」「セキュリティ」「分散性」というブロックチェーンのトリレンマのうち、分散性に疑問符がつくという声もあります。

ギャラクシー・デジタルによりますと、取引記録の承認を行うバリデーターとしてネットワークに参加するためには数千ドル相当のハードウェアが必要である他、100万ドル相当のソラナを預けなければなりません。

イーサリアムに勝つためには、ソラナ財団や開発者が分散性に力を入れる方針を強化する必要があるかもしれません。

カルダノ(ADA)

イーサリアムの共同創設者であるチャールズ・ホスキンソン氏によって、2017年に設立されました。イーサリアムキラーの中では古株であり、世界中でコミュニティ拡大に成功し、開発者の規模はイーサリアムについで2番目です。日本のカルダノのコミュニティも大きいことで知られています。2021年の価格上昇率は、530%でした。

カルダノは「査読済みのネットワーク」と呼ばれています。ただ開発者の経験が豊富であり立ち上げも2017年と早かったにもかかわらず、いまだに稼ぎ頭となるユースケースを見出せていないのが現状です。NFTやDeFiの運用に欠かせないスマートコントラクト機能のサポートが始まったのは2021年9月でした。

ただ、開発力やコミュニティ力が強いのは確かであるため、ポテンシャルは高いかもしれません。

ポルカドット(DOT)

ポルカドットは、「リレーチェーン(RelayChain)」と「パラチェーン(Parachain)」という2つのブロックチェーンで構成されています。リレーチェーンはメインのネットワークで最終的に取引が記録される場所です。パラチェーンは、外部のアプリ開発者がカスタム可能なブロックチェーンで複数存在し、DeFiやNFTなどさまざまなユースケースを実現できる仕組みになっています。

パラチェーンはリレーチェーンにつながることでセキュリティを担保する一方、取引処理をそれぞれ分担することでリレーチェーンの負担を減らし、速い取引スピードを実現します。

イーサリアム共同創設者のギャビン・ウッド氏が創業者です。本書の対談で登場する渡辺創太氏は、ポルカドットのパラチェーンの枠をめぐるオークションで世界で3番目に支持を集めたアスターネットワークの創業者です。

パラチェーンのオークションは2021年11月に始まったばかりであり、NFTやDeFiの受け皿としての真価はこれから問われることになります。

アヴァランチ(AVAX)

アヴァランチは、安全性と分散性を維持しながら拡張可能というトリレンマを解決したブロックチェーンを目指しており、豊富な資金力を背景にイーサリアムから開発者の引き抜きを精力的に行っています。米大手銀行のバンク・オブ・アメリカ(BofA)は、2021年12月、アヴァランチがイーサリアムに代わって信頼性の高い選択肢になるというレポートを発表しました。2021年の価格上昇率は、1万884%でした。

アヴァランチを支えるテクノロジーの多くを考案したのは、コンピューターサイエンティストでコーネル大学元教授のエミン・ギュン・シラー氏です。開発の中心となるアヴァ・ラボのCEOを務めています。

この他、10代や20代の若者や大学中退者、匿名の人たちが影響力を持つこの業界において、アヴァランチの経営陣は「しっかりとした経歴」を持つ人が多いとコインデスク・ジャパンは伝えています。

しかし、ギャラクシー・デジタルによりますと、一部のAVAX保有者からコミュニティへの十分な意思疎通なしにアップデートが行われているというアヴァ・ラボに対する不満も漏れているようです。

(試し読み 次回につづく

→書籍はこちら『仮想通貨とWeb3.0革命』

書籍情報

『仮想通貨とWeb3.0革命』
千野 剛司(著)/日経BP 日本経済新聞出版

【内容紹介】
出遅れた我々に復活の道はあるのか?

2014年頃、日本には世界一のビットコイン取引所があった。2017年末に仮想通貨相場の盛り上がりを牽引したのも日本の投資家だった。その後、仮想通貨の「冬の時代」を経て、2020年末、米国を中心に世界が再び仮想通貨に目覚めた。しかし、かつての仮想通貨大国の日本は眠りについたままだった……。

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読者限定!書籍プレゼント

今回『仮想通貨とWeb3.0革命』千野 剛司(著)の出版を記念して、「あたらしい経済」読者の皆様に書籍『仮想通貨とWeb3.0革命』を抽選で10名様にプレゼントいたします。以下の応募フォームよりご応募ください。なお当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます(応募締め切り:2022年7月25日23時59分)。

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この記事の著者・インタビューイ

千野剛司

Binance Japan代表
慶應義塾大学卒業後、2006年に東京証券取引所(東証)に入社。2008年の金融危機以降、東証傘下の清算機関、日本証券クリアリング機構(JSCC)においてOTCデリバティブ取引の清算集中プロジェクトを主導した他、経営企画を担当。2016年以降、PwC JapanのCEO Officeにて、経営陣の戦略的な議論をサポート。2018年、米仮想通貨取引所のKrakenに入社し、2020年3月より日本法人代表を務めた。その他、日本暗号資産取引業協会では副会長、日本暗号資産ビジネス協会では理事を歴任。2022年7月より現職。

Binance Japan代表
慶應義塾大学卒業後、2006年に東京証券取引所(東証)に入社。2008年の金融危機以降、東証傘下の清算機関、日本証券クリアリング機構(JSCC)においてOTCデリバティブ取引の清算集中プロジェクトを主導した他、経営企画を担当。2016年以降、PwC JapanのCEO Officeにて、経営陣の戦略的な議論をサポート。2018年、米仮想通貨取引所のKrakenに入社し、2020年3月より日本法人代表を務めた。その他、日本暗号資産取引業協会では副会長、日本暗号資産ビジネス協会では理事を歴任。2022年7月より現職。