ウィキペディアから「ビットコイン」が削除、その時サトシたちはどんな議論をしていた?

小宮自由

ウィキペディアから「ビットコイン」が削除された頃

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第46回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

現在の関心レベルからすると、今やウィキペディアが「ビットコイン」の記事を削除することは想像できない。この投稿の当時は、1ビットコインはまだ1ドル以下だったが、ウィキペディアに項目が出るにふさわしい程度には人々の関心を醸成していた。サトシはここで、メディアでビットコイン絡みの報道が急速に増えていることから、奇妙なタイミングだと思うとコメントしている。

サトシ・ナカモトの投稿

それではサトシの投稿をみていこう。

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Re:ウィキペディアは記事を削除したがっている

サトシ・ナカモト 2010年07月20日 午後06時38分28秒

(注:斜体部分は、サトシ以外の者の質問を指す)

引用:Giulio Prisco 2010年07月14日 午前07時21分08秒

http://en.wikipedia.org/wiki/Bitcoin

この記事はウィキペディアの削除方針に従って削除が検討されています。この記事の登録に関するあなたの考えを「削除候補の記事」のページでシェアして下さい。

この記事は、信頼できる第三者出版物の参照文献を必要としています。一般に、一次資料や主題の当事者のソースはウィキペディアの記事には不十分です。信頼できる出処から適切な引用を加えて下さい。

最近、スラッシュドットに出た記事なら信頼できる参照文献と見なされるでしょう。

http://news.slashdot.org/story/10/07/11/1747245/Bitcoin-Releases-Version-03

今は私は編集できなくなっているので、誰かウィキペディアの記事を救ってくれませんか?

ビットコインは、1998年にサイファーパンクス(http://en.wikipedia.org/wiki/Cypherpunks)上で提唱されたウェイ・ダイの「bマネー」(http://weidai.com/bmoney.txt)と、ニック・サボーによるビットゴールドの提唱(http://unenumerated.blogspot.com/2005/12/bit-gold.html)を実現したものである。

ちょうどスラッシュドットの記事が出てから第三者の報道が急速に増えているところなので、タイミングが奇妙です。大急ぎで話をまとめて結論を出すことではないといいのですが。通常、ウィキペディアではどのくらいの期間、この種の質問をコメント用にオープンにするのですか?

できるだけ早めに記事の内容を圧縮して、広告的になってしまっているニュアンスを弱めてくれると助かります。ビットコインとは何か、電子貨幣のスペースに適したものであることを人々に知らせるのみの文章とし、ビットコインは良いものだと説得するようなことはしません。たぶん、ウィキペディアが求めるのは、ビットコインとは何かを単に一般論として定義する文章であり、ビットコイン動作の全てを説明した文章ではないと思います。

http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Articles_ for_deletion/Bitcoin に投稿するときは、「そう。でも、ビットコインは本当に大切で特別なものなので、ルールを適用すべきではない」と書いたり、「ルールは愚かだ、公平でない」といった話はしないで下さい。それでは状況が悪くなるだけです。ルールを守るようにして下さい。

「ビットコイン」をグーグル検索して、InfoWorldとスラッシュドットの他に重要な参照記事があるかどうか確認して下さい。スラッシュドットの記事でビットコインのことを知ったリポーターが、ごく最近、何かを書いているかもしれません。

削除されないよう望みます。削除されれば、憶測に打ち勝つのは難しくなります。組織の勢いとは最終決定に従うことです。(編集。少なくとも私はそう思います。通常の世界の仕組みはそうですけど、ウィキペディアは違うかもしれません)

その後、7月31日、記事は公式に削除されたが、後に復活した。*1

Re:ビットコインのウィキペディア・ページが削除された!!!

投稿:em3rgentOrdr 2010年07月31日 午前02時17分41秒

http://en.wikipedia.org/wiki/Bitcoin から

「このページは削除されました。参照のため、このページの削除と移動のログは以下にあります」

2010年07月30日 10時42分 Polargeo (talk | contribs)削除「ビットコイン」→(ウィキペディア:削除記事/ビットコイン)

Re:ビットコインのウィキペディア・ページが削除された!!!

投稿:sirius 2010年09月30日 午後04時45分26秒

削除されたページの違う言語バージョンを、削除されないように作れますか? もしできるならやりましょう。私はフィンランド語バージョンを書けます。

Re:ビットコインのウィキペディア・ページが削除された!!!

投稿:サトシ 2010年09月30日 午後05時50分32秒

書くなら、ビットコインとは何かをただ定義するだけにして、百語かそれ以下のごく短い一パラグラフの記事にした方がいいと思います。

ウィキペディアからは、記事の削除ではなく、長さの制限を設けてくれるのを期待したいです。知名度が足りない場合、ビットコインとは何かを定義する短い記事が少なくとも必要です。私は、ウィキペディアが少なくともうわさを聞いている事項である、という意味の煩わしい赤リンクをよく見かけます。

記事はこのぐらい簡潔な方がいいです。

「ビットコインはピアツーピアの非集中型の/リンク/電子通貨/リンク/である。」

ウィキペディアで標準的に行われているのは、電子通貨や電子キャッシュのように、ビットコインが属する一般的なカテゴリーを一つ選んで一パラグラフを割くことです。たぶんそこに一パラグラフを作れます。もう一度言うと、短くまとめて下さい。ビットコインとは何かの定義だけです。

Re:ビットコインのウィキペディア・ページが削除された!!!

投稿:ribuck 2010年12月13日 午前11時23分41秒

記事が復活するようです。でも、問題点が提出されていて、それは、記事の参照文献の多くがこのフォーラムのページになっている点です。フォーラムに代えて、明らかな利害対立のないページへの参照を付加できると助かります。

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【訳注】
*1 フィル・シャンパーニ氏の発言。

解説

ビットコインにもこのような下積み時代があったのだと伝わってきます。当時のビットコインは価格も流動性も低く、世間一般から相手にされていませんでした。2024年3月5日に、ビットコイン価格は一時1000万円を越える過去最高値を記録しました。隔世の感を禁じ得ません。

小宮自由

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小宮自由

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

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