「中央管理型通貨の恣意的なインフレリスクとおさらばしましょう! 」サトシがビットコイン0.3リリースで寄せた言葉

小宮自由

中央管理型通貨の恣意的なインフレリスクとおさらばしましょう!

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第41回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

この新しいリリースの内容について、サトシは技術面の説明のみならず、次のような販売・マーケティングの口調も披露している。「中央管理型通貨の恣意的なインフレリスクとおさらばしましょう!ビットコインの総流通量の上限は2100万コインです」

サトシ・ナカモトの投稿

それではサトシの投稿をみていこう。

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ビットコイン・バージョン0.3のリリース!

サトシ・ナカモト 2010年06月06日 午後06時32分35秒

ピアツーピアの暗号通貨、ビットコインのバージョン0.3の告知です。ビットコインは暗号と分散型のネットワークを使ったデジタル通貨で、信用される中央サーバーを必要としません。中央管理型通貨の恣意的なインフレリスクとおさらばしましょう! ビットコインの総流通量の上限は2100万コインです。コインはCPUパワーを提供するネットワーク上のノードへ徐々に発行されますので、遊んでいるCPU時間を提供すれば分け前を獲得できます。

新しい機能:

・コマンドラインとJSON-RPC制御
・GUI無しのデーモン版を含む
・取引フィルタータブ
・20%速いハッシュ処理
・ハッシュメーター・パフォーマンスの表示
・Mac OS Xバージョン(Laszloに感謝)
・ドイツ語、オランダ語、イタリア語訳(DataWraith、Xunie、Joozeroに感謝)

http://www.bitcoin.org で入手するか、詳しくはフォーラムを読んで下さい。

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解説

この記事はビットコインの単なる告知に過ぎませんが、サトシの思想が垣間見える部分もあります。サトシは中央銀行の施策を「恣意的」と評価し、特に通貨価値のコントロールに関して明確な拒絶を示しています。ビットコインの発行ルールが決まっているのは、誰かが恣意的にルールを変更して価格をコントロールできないようにです。

しかし、実際にはビットコインの価格は「恣意的に」コントロールされることは何度もありました。著名人がビットコインを支持したり、大量にビットコインを買う等して価格を釣り上げるケースは何度も起こっています。また、国家組織の働きかけで価格が動くこともあります。最近(2024年1月23日現在)では、SEC(米国証券取引委員会)のビットコインETF承認に伴い、ビットコインが急騰しました。発行ルールには干渉できなくても、風説や事件によってビットコインは暴騰や暴落を繰り返しています。

ただ、これは一過性のもので、ビットコインの市場規模が極めて膨大になれば(それこそ、金と並ぶ程度になれば)、このような価格の不安定さはなくなるのかもしれません。

小宮自由

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小宮自由

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

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