医療業界にブロックチェーン技術を普及させるには PoT #04-3 水島洋×コ・ウギュン(メディブロック)

藤本真衣

医療従事者の多くにブロックチェーンを理解してもらうには

藤本:お話いただいた通り、医療業界とブロックチェーンは非常に相性がいいですね。しかしこれから医療業界がこの技術を取り入れていくには、現在の医療従事者がみんな技術に追いついていけるかというのも一つの課題だと思っています。この部分はどのように啓蒙していくべきだとお考えですか? 具体的なアクションがあれば教えて下さい。

コ:私たちは現在、ブロックチェーンを使った「Personal Health Record」の仕組みについて多くの企業や医療従事者向けに講義を行っています。

実際に「Personal Health Record」の重要性について言及されはじめたのは10年ぐらい前からですので、その重要性や課題についてはすでに医療業界の方々が認識できている状況です。

あとはこの技術をそこにどういう風に導入するかという議論になります。それについては丁寧に私たちがこの問題解決のためにしていることを詳しく伝えることが、現在のところの私たちにできるベストだと思います。

そしてどうしても新しい技術に対して懐疑的な方も多くいらっしゃいます。医療業界に関してもそのような方々は多いです。そこで最も大事なことは「見える化」することだと思っています。懐疑的な方々に納得してもらえるように、実際にその仕組みを見せるということが大事だと思います。

韓国で私たちは複数の大学病院と実証実験を進めております。そして病院のみならず、製薬会社や保険会社など、他の事業者さんとも手を組んで、ブロックチェーンベースの「Personal Health Record」システムを用いた実証実験を進めております。

そういった実証実験を積み重ね、ユースケースを増やしていく。その実例が多くなれば、より多くの方々に私たちがしようとしていることの可能性を信じていただき、もっと大きな変化が起こるのではと信じています。

日本の医療業界とブロックチェーン

水島:現在の韓国と、日本の医療情報に関する事情はかなり似ていると思います。

私は20年ぐらい医療の情報化について携わっているのですが、この分野ってすごく古いのですよね。電子カルテという古いシステムが今も続いていますし、それ以外でも、さまざまな情報を応用すればいいのに、なかなか医療業界はスピーディーに進まない風土があるのです。

この分野は人の命が関わることなので、あまり新しいことはできないというのは理解していますが、それでもチャレンジが少ないように思います。そんな中でもブロックチェーン自体に僕はすごく期待しているのです。

1992年ごろに、私ががんセンターで初めて医療情報とインターネットを繋げたのですけれども、はじめはみんなあまり賛同してくれませんでした。当時医療をインターネットに繋ぐなんて危くてできないという雰囲気でした。その後次第に技術発展と医療以外でもさまざまな分野でインターネットが普及することで、医療分野でもインターネットは使われるようになってきました。はじめは普及するのにすごく苦労したけども、今では誰も意識せずインターネットを使っています。

だから私は医療ブロックチェーンを理解してもらうための活動をたくさん行っていますが、一方で医療分野以外でも面白いものがたくさん広がって、みんなが気が付いたら「それは実はブロックチェーンを使っていた」っていうような感じになることがまず大切だと思っています。だから医療業界に限らず、さまざまな業界で普及していくことを願っています。

その意味ではブロックチェーンという表現がなくなってもいいんですよね。世の中にブロックチェーンが普及すればするほど、この単語が使われなくなってくるはずです。

インターネット黎明期のころの、何か出来そうだな“わくわく感”と、今のブロックチェーンが何かに使えそうな“わくわく感”は、強く共通性があると思っています。だから今のインターネットみたいに、将来、本当にブロックチェーンがなくてはならない時代になるんじゃないかなと思っています。

(第4回につづく)

→第4回「日本と韓国の「医療×ブロックチェーン」の現状と課題 PoT #04-4」はこちら

←第2回「医療・健康情報は非中央集権で管理すべきか PoT #04-2」はこちら

インタビューイ・プロフィール

水島洋(みずしま ひろし)
国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター長
1983年東京大学薬学部卒業。1988年薬学博士。国立がんセンターがん情報研究部室長、東京医科歯科大学オミックス医療情報学講座教授などを経て、現在に至る。ITヘルスケア学会代表理事、医療ブロックチェーン研究会会長など兼務。専門領域はゲノム研究のほか、医療情報学、公衆衛生学、希少疾患・難病、災害など。

コ・ウギュン
メディブロック共同創業者
2006年韓国のKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)にてコンピュータサイエンス学位を取得した後、2008年アメリカのコロンビア大学にてコンピュータサイエンスの修士号を取得。2008年から2012年までサムスン電子でリードソフトウェアエンジニアとして勤める。2012年、慶熙大学歯医学専門大学院にて歯科医の修士号を取得した後、2017年3月まで歯科医として勤務。2017年4月、医療情報システムに問題意識を持ち、ブロックチェーン技術を用いてその問題を解決しようと「メディブロック」を設立。

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

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私は医療ブロックチェーンを理解してもらうための活動をたくさん行っていますが、一方で医療分野以外でも面白いものがたくさん広がって、みんなが気が付いたら「それは実はブロックチェーンを使っていた」っていうような感じになることがまず大切だと思っています。だから医療業界に限らず、さまざまな業界で普及していくことを願っています。

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まさにそこが問題なんです。個人の健康情報を日本の中でどのように管理していくか、いくつかの方法があると思うのですね。 私は、国が管理する方法が一番いい方法だと思います。エストニアのように、国が全部の情報を持ち、各病院に法的な根拠に基づいて導入していくという形で進めるイメージです。