2Web3の本丸はトークン。今一度「トークンファースト」で考えよう
メインネットローンチから今年で3年目を迎える、日本発のゲーム特化ブロックチェーン「オアシス(Oasys)」の代表 松原亮氏。2018年にブロックチェーン/暗号資産の専門メディア「あたらしい経済」を創刊した設楽悠介。2人はここ数年の業界の変化をどう見ているのか? 特別企画として両氏の対談をお届けする。
【対談】Oasys 松原亮 × あたらしい経済 設楽悠介
設楽:オアシスのメインネットローンチから2年ほどが過ぎ、今年3年目となりました。まず松原さんはご自身でオアシスをどう振り返っていますか?
松原:この2年でフェーズ1は終わって、やりたいこと結構できたと思います。そもそもオアシスが目指していたのは、日本のIPやゲームの受け皿を作ることでした。
ローンチ当時は、海外で強いゲームがチェーンなど展開をはじめていた時期。このままブロックチェーンゲームが大流行したら、グローバルで日本のゲームが置き去りにされたり、十分な旨みを得られなかったりするのではないかと危機感があったんです。
だから日本のゲーム業界を巻き込んで、業界の各社がバリデータでちゃんと利益を得られるチェーンをリリースして、そこにコンテンツを載せてもらうことを目指していました。振り返ると、そのような形は作れたと思っています。
設楽:確かにここ2年で、国内大手ゲーム企業のブロックチェーンゲームのローンチがいくつかありました。ただ日本だけの話ではないですが、ぶっちゃけブロックチェーンゲームは期待ほどは流行しなかったと感じています。少なくともWeb3をマスアダプションさせるほどの爆発は起こせなかった。その理由は何だと思いますか?
ブロックチェーンゲームが期待ほど流行しなかった理由
松原:大手ゲーム企業は、これまでの既存ゲームのようなアプローチでユーザーの獲得を目指しつつ、そこにWeb3のエレメント、つまりトークンやNFTを入れ込むようなプロジェクトが多かったと思います。これまでのゲームプレイヤーを、Web3に引き込むようなアプローチといっていいかもしれないです。それができればもちろん理想的です。
しかし既存ゲームの人をWeb3やクリプトに持ってくる、そして定着させるのは、簡単ではなかった。リッチなゲームを作ればいいんじゃないか、すごいIPでゲームを作ればいいんじゃないかと、みんな期待して、結構な規模の予算のブロックチェーンゲームも出ました。ただそれらのゲームはWeb3をおまけとして足しているだけで、Web2要素でそもそもマーケしてしまっていたので、コンテンツ競争で勝てるものはなかった。
そうなると「フォートナイト(Fortnite)でいいじゃん」となってくる。そもそもゲーム以外にも例えばネットフリックスとか、コンテンツ消費の競合はたくさんあったわけです。
もちろんブロックチェーンゲームは今後も可能性が無いと言っているわけではないです。ただこの2年を振り返ると、そうだったというのは事実だと思います。その状況を打破するタイミングは、まだ先にはあると思っています。
設楽:ここまでのブロックチェーンゲームも少しはユーザーを広げたし、これからもチャンスはあると思っています。
とはいえ、そもそもクリプトに興味ある人は、稼ぎたいけどそもそもゲームをするのが面倒くさい、だからトレードとかIEOとかエアドロとかミームとか狙う方がいいってなる。一方、純粋なゲーム好きは、付加されたWeb3の要素が難しく、これもまたそれを学ぶのが面倒で単純にゲーム楽しみたいってなる。
これまでのブロックチェーンゲームってその2者の中間点にボール落としちゃっていたようなイメージを持っています。両者からもちろん参加する人もいましたが、それが大多数ではなかった。やっぱりエアドロでいいや、フォートナイトでいいやっとなってしまった。
改めて、トークンファーストで考えよう
松原:そうだと思います。だからまずクリプトの人たちをどれだけちゃんと巻き込んでいけるかが、やはり重要だと思っています。
アクシーインフィニティ(Axie Infinity)やステップン(STEPN)の流行を受けて、「これからブロックチェーンゲームだ」とみんなで開発しましたが、でもその後に市場が冬になった。そんな中のトレンドを振り返ってみると、エアドロップやミームコインがあるわけです。結局、中心にはトークンがあるんですよね。
だから今一度、原点に立ち戻る、トークンファーストで考えるのが重要だと思っています。ゲームを出してトークンエコノミーを作るではなく、トークンからはじまって結果としてゲームにも発展していくような。
オアシスとしてもこれからのフェーズ2として、トークンファーストなプロジェクトをしっかり支援していきたいですね。
設楽:私もWeb3の本丸は、やはりトークンだと常に思っています。トークンで経済圏を作ることができるのが、これまでのWebでは出来なかったことですし。
イーサリアムとソラナ
松原:最近イーサリアムが少し元気がないじゃないですか。一方ソラナは元気がある。
そもそもイーサリアムって、DEXが流行り、トークン発火装置になって、そこからイーサに流動性が生まれていた。その後、ミームコインのトレンドに上手く対応したソラナに、その座を脅かされだしている状況だと思っています。
設楽:ソラナの成長を牽引した大きな要素の一つは、間違いなくミームコインですよね。先日トランプがソラナ上でミームコインを出しましたが、その後1月のDEX取引量は、ソラナのレイディウム(Raydium)がイーサリアムのユニスワップ(Uniswap)を上回りました。そしてソラナにはミームコイン作成・取引プラットフォームとしてパンプファン(Pump.Fun)がある。
そういえば先日、オアシス上でもパンプファンに似たサービスがローンチされましたね。
松原:ユキチファン(YUKICHI.FUN)ですね。OASなどを使って、誰でもトークンを発行でき、そこで人気になるとDEXにトークンを出せるプラットフォームです。

オアシスには日本のユーザーも多いので、ユキチファンが日本の市場にどのような化学反応を起こすか、まだローンチしたばかりですが、個人的にも楽しみに見ています。ここまで話したトークンファーストという意味で、私たちとしても応援したいプロジェクトの一つです。
設楽:確かに日本でもトークンローンチパット的なものとして、フィナンシェ(FiNANCiE)が最近一部で話題になっていますが、ユキチファンはさらにオンチェーンなのでグローバルに広がりやすい。
しかしユキチファンで一般のユーザーがトークンを出すのは、日本の規制的に大丈夫なんですか?
松原:おっしゃる通り、規制は守らないといけません。
ただ現在の日本の規制は、何が何でもトークンを出してはダメ、というものではないんです。
まずトークン発行自体が問題であるわけではない。そのトークンが国内における暗号資産にあたるかどうかが1つのポイントです。例えば決済手段として使えず100万個以下であれば、暗号資産ともみなされないという条件があったりします。
ちょうど先日、弁護士の斎藤創先生が「ミームコインの発行と法律、税務」と題した記事で、どのような条件であればトークンを日本でも発行できるかについて解説されていました。詳しくはそれを読んでいただくといいかと思います。
どのようなトークンを発行すべきか?
設楽: では規制をクリアした上で、改めてトークンファーストを実践するとして質問です。ユキチファンのようなプラットフォームを使ったり、自分でコントラクト書いたりしてトークンを出す場合、どのようなものがいいと考えていますか?
松原:例えばファントークンのようなものであれば、実は過去のNFTバブルの時にみんなが考えていたものとそれほど変わらないと思っています。
NFTバブルの時は1万枚ぐらいの発行が主で、アートやコレクターアイテム的な側面もあったので流動性も低く、小さいコミュニティしか作れなかった印象です。一方トークンだと、上手くいけば流動性も高まり、大きなコミュニティを作ることができると思っています。
その上でトークン保有者にどんなインセインティブが必要なのかは、NFTバブルの時にみんなが試行錯誤して考えたアイデアが生きるのではないかと思っています。
NFTバブルが去って、当時挑戦していたけど現在はWeb3から離れてしまったアーティストやクリエイターたちに、「今一度チャンスあるよ」と言いたいですね。
これからは、個人とかコミュニティがもっとカジュアルにトークンを発行する時代になると思っています。
設楽:なんたって米国大統領やその夫人も公式ミームコインを出しているような時代になりましたからね。
先ほど松原さんおっしゃった通り、もちろん規制と向き合ってですが、現在の日本のIEO(Initial Exchange Offering)のような大掛かりなものではなく、もう少しカジュアルにトークン発行に挑戦してもいいかもしれないですね。
松原:今話に出た日本のIEOですが、これまでの実績をみても、大きな調達額を叩き出していいます。IEO後の価格が伸びない課題はあるものの、初動の調達はグローバルにひけを取らないレベルです。
つまりこれまでも日本人はかなりトークンを買っているわけです。だからトークン発行がもっとカジュアルになれば、もっと日本市場を盛り上げられるポテンシャルはあると思っています。
その上でこれまでのIEOは、調達目的に比重が大きすぎたという側面もあると思っています。資金調達のためにトークンを出すんではなくて、あくまでコミュニティを盛り上げる要素として、トークンを出すようなイメージですね。
例えばユキチファンを使えば、発行体側も少しは調達になるものの、多くがマーケットに流通するわけです。そのぐらいが、ちょうどいい気がしています。フルフル資金調達のためにトークンを出すんではなくて、あくまでコミュニティを盛り上げる要素として、トークンを出すようなイメージですね。
アーティストやクリエイターにWeb3に戻ってきてほしい
設楽:NFTバブルの時にとりあえずNFTは作ってみたものの、プロジェクトとしては一種のキャンペーンのように単発で終わってしまい、その後どうしようと悩んでいるアーティストやクリエイター、または企業なども多いのではと思います。結局Web3でその後何をすればいいんだろうって。
松原:最近NFT発行を経てトークンを出した、アズキ(AZUKI)やパジーペンギン(Pudgy Penguins)の盛り上がりをみても、日本のサブカル的なもの、エンタメの領域にはまだまだトークン発行というチャンスがあると思っているんですよね。
ビットコインだけ買っている場合じゃないぞ、今こそ日本のクリエイターやIPを持った企業が再び立ち上がるべきタイミングだ、そう思っています。
設楽:もちろんトークンを出せば、絶対成功するわけではないです。ただ明らかにグローバルのトレンドの一つは、そこにある。それに日本もついていかないといけない。
日本においてトークン上場のスピードや量がそもそも少なすぎること、またIEOも実施までに時間がかかりすぎることは、グローバルとのWeb3における格差を広げてきた、大きな課題だと思っています。
もちろん規制を気にするな、ルールを破れと言っているわけではないです。ただ今一度、松原さんのおっしゃるトークンファーストという考えに立ち戻って、ちゃんと私たちはできることを考えていくべきタイミングかもしれないですね。
松原:そう思います。だから私たちオアシスとしても、引き続きフェイズ1で培ったゲームのブロックチェーンとしての拡大を続けて、将来のチャンスを伺っていきます。それに加えフェイズ2である今後は、トークンファーストのプロジェクトを支援するチェーンという側面も強化していきたいと考えています。
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取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:堅田ひとみ