ヒットゲームのエンジニアがブロックチェーンゲーム(Dappsゲーム)を作るとしたら(株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬龍馬)

村瀬龍馬

SNS「mixi」やスマホアプリ「モンスターストライク」(以下、モンスト)の開発に従事し、株式会社ミクシィ 執行役員CTOの村瀬龍馬氏にゲームエンジニアとしてのブロックチェーンの可能性や、ゲームの発展の可能性について語っていただいたインタビュー第2回です。(→第1回はこちら

ブロックチェーンゲームも、まずユーザーが面白いかどうかが重要

−仮に村瀬さんが今ブロックチェーンゲームを作るとすると、どのように作っていきますか?

まず、ゲームというのは大前提としてそのゲームバランスや楽しさが崩れないように設計されてなくてはいけないものです。

つまりその仕組みが中央集権か非中央集権か、ブロックチェーンを使うかどうかということよりも、まずそのゲームが面白いか、プレイしてみんなが楽しいか、ということが一番大切です。

それにはやはり誰かがまずは中心となってゲーム全体を設計することが必要だと思っています。ブロックチェーンの仕組み上、中央なしにアセットやデータベースを共有化することを意識する必要がありますが、ゲーム設計は技術ありきでやるものでもないですしね。

だからブロックチェーンゲームを今私が作るとしても、意識はしつつもゲームを作ることは変わらないのでユーザーがゲームを楽しんで盛り上がるものを設計しつつ、スマートコントラクトやトークンなどの技術を部分的に取り入れながらゲームをより魅力的にしていくという手法をとると思います。

その一つとして、ゲームにおいては、プレイヤー自身がゲーム内で得たアイテムなどに対する価値に気づける瞬間を演出しなければならないと考えています。

だからまずはゲームを心底楽しんでもらって、毎日のようにやってもらう魅力がある前提で、そこからいつの間にか自分が持っているものに実は価値があるということ、時間を使ったものに価値を感じられる状態を、ブロックチェーンを使って作ることができれば理想的ですね。

ゲームバランスをいかに保ってトークンに価値を持たせるか

−トークンの仕組みを使えば、ゲーム内でプレイヤーが稼いだものを現実世界で価値を持たせることもできると思います。その部分は今後多くのゲームに取り入れていかれると思いますか?

ゲームをしながらプレイヤーがゲームで得たトークンの取引で稼ぐこと “も” ゲームプレイの一環としてできる仕組みがあると、きっと楽しいと思います。特定のキャラの貸出や売却に値段が付き、個人間で取引ができるようになったら面白いですよね。

可処分時間、可処分所得を使っていたゲーマーが、所有権の譲渡や貸与によって稼げるような仕組みは今後とても重要だと思います。

そもそもゲーム内資産には昔からゲームが流行った場合にはRMT(リアルマネートレード)が起きてしまうくらいの価値があるものです。だからその部分にユーザーが魅力を感じるのは間違いないと思っています。

現在のRMTは利用規約として制限しているものがほとんどなので、それがブロックチェーンを使うことで公式に正しい仕組みとしてアップデートされていくのは面白い試みです。

ただどのようにゲームバランスを保って、その仕組みを設計し組み込むかは、非常に難しいポイントです。

昔「ディアブロ3」というPCゲームがリアルマネーオークションを実装したことがあります。しかし当時それに対するユーザーの反響は良くなく、結果閉じてしまいました。

仮に個の資産を作れ、それが良いもので価値の高いものができたとしても、他の人間がそれを利用して便利にしてしまった場合、ゲームバランス次第ですが、ゲームの楽しみの一つである“コツコツ良いものを手に入れる楽しさ”を失いかねないわけです。

ずっと無敵状態でアクションゲームをプレイしていても面白くないですよね(笑)。簡単に言うとそんな感じです。

ただ、モバイルゲームはコンシューマゲームとは考え方が違う。これを踏まえた上で、Pay to Win という状態でも正とする見せ方をするか、時間を買うのみで公平であるような仕組みにする、もしくはまったく影響が無いようなバランスを考えるか。そういった別の発想を取り入れなくてはなりません。

このようにトークンを使って外部とも交換できる価値をゲーム内で設計するのは本当に難しい。ですが、今後この分野は広がっていくと思いますので、その設計ができる人の需要はすごくあると思います。

ブロックチェーンプログラムの難易度は?

−ちなみにゲームのエンジニアである村瀬さんからみて、ブロックチェーンのプログラムというのは難易度が高いと感じられますか?

何を作るのかによりますが、単純なデモのようなものを作るのであれば、既存のフレームワークなどオープンソースで公開されているものを利用すればそんなには難しくはないですね。フレームワークを見て、ポチポチやってトークンを発行するみたいなことであれば、エンジニアであれば少し勉強すればすぐにできます。そもそもオープンソース文化であることや、オンラインの教材や、「クリプトゾンビーズ」みたいな学べるものも整ってきています。

ただ、それができたとしても、それを何に使うか、本当にそれはブロックチェーンである必要性があるのか、ということを考えなければならない。その部分で多くのエンジニアは葛藤があるんじゃないかと思います。

プロダクトにとってはその技術を採用する必要性を見極めることが大切

−ミクシィとして既存のゲームやこれから開発するゲームにブロックチェーンを使っていく予定はありますか?

社内で実際にブロックチェーンの調査や実装を行っているエンジニアは何人もいます。ですが、ブロックチェーンはいろんな分野で可能性があると感じてはいますが、予定があるかというと今のところはなんともいえませんね。

個人的なアイデアとしては、ゲーム内のレアキャラにトークンとしての価値をもたせて、そのレアキャラトークンの所有権を友達に貸し出せるというような、ゲーム内キャラのレンタルみたいなことができたらと考えたことはあります。

ただ、そういった実装をするとしても、本当にそれをブロックチェーンでやる意味があるのか、それでゲーム性が失われないか、ということは議論を重ねて慎重に行っていかなければいけないと思っています。

ゲームに限らず、すべてのプロダクトに言えると思うのですが、そのプロダクトにとってその技術を採用する必要性を見極めることが本当に大切です。

だからブロックチェーンは、それを使うとどういう世界になっていくかのビジョンを長期的に描いた上で、取り入れていくべき技術だと考えています。

更に、採用する様々な会社がプロトコル等の議論をオープンにして、共同で前に進んでいくことが重要になっていくと思っています。

(第3回に続く)

第1回はこちら→「人気ゲーム「モンスターストライク」のエンジニアはブロックチェーンゲーム(Dappsゲーム)をどう見るか?」

編集:設楽悠介・大津賀新也

この記事の著者・インタビューイ

村瀬龍馬

株式会社ミクシィ 執行役員CTO
1985年、神奈川県生まれ。高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。2009年に1度退職し、ゲーム会社の役員や京都のゲーム会社でエンジニアなどを経験。2013年に株式会社ミクシィに復帰し、別部署を経て『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAG開発本部 本部長としてXFLAGのエンジニア全体を統括した後、現在は執行役員CTOを務める。

株式会社ミクシィ 執行役員CTO
1985年、神奈川県生まれ。高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。2009年に1度退職し、ゲーム会社の役員や京都のゲーム会社でエンジニアなどを経験。2013年に株式会社ミクシィに復帰し、別部署を経て『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAG開発本部 本部長としてXFLAGのエンジニア全体を統括した後、現在は執行役員CTOを務める。

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