サトシが予想した、ビットコインの初期ユースケースは?

小宮自由

サトシが予想した、ビットコインの初期ユースケースは?

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第17回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

この書き込みからは、ビットコインがこれほどまでに急速に莫大な成功を収めるとは、サトシ・ナカモトの想定外だったことが推測できる。ビットコインの最初の使い道は、小額決済やポルノサイトであろうとサトシは述べている。興味深いことに、実際の最初の使用例はそれではなかった。また、サトシは、有名人がファンからの個人的なメッセージの受取に利用することも提案している。

次のような見方もしている。

「ビットコインが将来、流行るケースに備えて少し取得しておくのも意味がありそうです」。

私は、サトシが自分のアドバイスを自分で実行したのだと考えている。1ビットコインの価値は、開始初年の数ペニーから2014年初頭には600ドル以上になった。

Re:ビットコイン・バージョン0.1のリリース サトシ・ナカモト 2009年01月17日 土曜日 06時58分44秒

それでは2009年01月17日 06時58分44秒のサトシのメールをみていこう。

(注:斜体部分は、サトシ以外の者の質問を指す)

Dustin D. Trammellは書きました:

サトシ・ナカモトは書きました:

ご存じのように、興味を持つ人が1990年代にはたくさんいたと思いますが、信用される第三者に立脚するシステム(デジキャッシュなど)の失敗が十年続いた後は、失敗事案と思われるようになっています。非信用基盤のシステムを試すのは、私の知る限り、今回が初めてなのだと、人々に理解されてほしいです。

はい、それが私の目をとらえた第一の特徴でした。ビットコインを通貨にしていくために、人々に実際にビットコインを評価してもらうことが本質的に重要です。 

今から十年後に何らかの電子通貨が使われていないとしたら驚きです。信用される第三者が逃げ腰に追い込まれたからといって必ず平凡化するわけではない電子通貨活用法を私たちは知ったのですから。

報酬ポイントや寄付トークン、ゲーム通貨、アダルトサイトの小額決済など、狭いニッチで使用が始まるかもしれません。 最初は、ほぼ無料だけど全部無料ではない、というサービスで、プルーフ・オブ・ワークのアプリに利用されるかもしれません。 

有料送信のEメールにはすでに使えます。送信ダイアログはサイズ変更が可能で、好きなだけ長いメッセージを入れられます。接続時に直接送られます。受取人は取引をダブルクリックするとメッセージの全文を読めます。自分で読める以上のEメールがファンから送られてくる有名人がいて、それでもファンからコンタクトをとれる方法を用意したいと思えば、ビットコインをセットアップし、自分のウェブサイトでIPアドレスを知らせます。「XビットコインをこのIPアドレスの私の優先ホットラインに送ってくれれば、メッセージを自分で読ませてもらいます」。

購読者の規模縮小を避ける上で、無料のお試しに特殊なプルーフ・オブ・ワークを必要とする購読サイトでは、お試しのビットコインを請求できます *1。

ビットコインが将来、流行るケースに備えて少し取得しておくのも意味がありそうです。多くの人が同じ考えなら、自己的中の予言になります。ビットコインが自立できるようになって、自動販売機にコインを投じるのと同じぐらい手軽に、ウェブサイトの数セントの支払が楽にできるなら、多くの応用事例が生まれます。

サトシ・ナカモト

http://www.bitcoin.org

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このテーマは後に、BitcoinTalkのフォーラムで再度扱われた。

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Re:ポルノ

投稿:サトシ 2010年09月23日 午後05時56分55秒 

クレジットカードを持っていない人、持っていても使いたくない人、配偶者に請求書を見られたくない人、ポルノ業者に番号を知られたくない人、請求書が定期的に届くのが怖い人には、ビットコインは便利なものになるでしょう。

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【訳注】
*1 そのサービスを受ける為に多少のコストを払ってもいいと思っているユーザを絞り込めるということを言いたいのだと考えられる。無料試用期間があるサブスクリプションサービスでクレジットカードを事前に登録させる(手間をかけさせる)ように、購読の前に少額のビットコインを送付させる(手間をかけさせる)。この手間を苦に思わないユーザは、ただ乗りせずに無料試用期間終了後も課金を続けてくれる可能性が高い。

解説

2023年6月22日現在、ビットコインの価格は30,000ドルを超えました。これは原著が記された2014年初頭の50倍もの価格です。ビットコインは米国でETFの申請が次々にされており、これが実現すればビットコインの投資に参加する人や機関は益々増えるでしょう。

ここまでの急速な成長をサトシは想像すらできていなかったでしょう。しかし、彼が述べたユースケースの多くは実現しています。なにかの報酬としてビットコインを付与するサービスは無数にあります。ビットコインが寄付に使われたケースも数多くあります。投げ銭は Twitter Tips で可能です。ゲーム内通過としては、ビットコインよりイーサリアムなどEVM互換性があるチェーンでの実装が多いですが、ブロックチェーンという広い括りでは実現しています。

サトシはアダルトサイトの決済について2回言及しています。サトシは終始匿名であったことからもプライバシーを重視する人物であり、ビットコインも適切に使えばプライバシーが守られます。プライバシーを守って決済したいわかりやすいユースケースとしてアダルトサイトを思いつく人は少なくないでしょう。実際に Pornhub でこれは実現されています。

小宮自由

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小宮自由

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp

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