プライバシー保護研究体制を強化
イーサリアム財団(Ethereum Foundation、以下EF)が、イーサリアムにおけるプライバシー保護機能の研究開発体制を強化するため、新組織「プライバシー・クラスター(Privacy Cluster)」を設立したと10月8日に発表した。
EFは今回の発表で、プライバシーを「何を共有するか、いつ共有するか、誰と共有するかを選択する自由」と定義した。しかし、現実社会では当然のように保護されるこのような行為が、オンラインやオンチェーンでは十分に保護されていないとEFは指摘している。
またEFは「信頼に値するデジタルインフラとしてイーサリアムを維持するためには、プライバシーを中核に据えることが不可欠」と述べ、プライバシーを人間の尊厳・安全・自由の前提条件と位置づけている。
さらに、プライバシーの意義を個人・開発者・企業および機関・社会の4つの観点から整理し、「率直にいえば、すべての人にとって重要な要素だ」と強調している。
EFは2018年より、プライバシー・スケーリング・エクスプローレーションズ(PSE:Privacy & Scaling Explorations)チームを通じてプライバシーの研究開発を支援してきた。これまでに50以上のオープンソースプロジェクトを開発し、匿名シグナリング(Semaphore)、秘密投票システム(MACI)、zkEmail、zkTLSの先駆けであるTLSNotary、匿名国家ID(Anon Aadhaar)といった主要プロトコルを生み出している。これらの基礎的プロジェクトは数千回フォークされたリポジトリを構築し、エコシステム全体のプライバシー研究開発の基盤となっている。
「Privacy Cluster」について
今回発表されたプライバシー・クラスターは、EFのプライバシーコーディネーターであるイゴール・バリノフ(Igor Barinov)氏が率いる。同業界トップの研究者・エンジニア・暗号学者47名で構成され、初期R&Dからプロトコル実装、機関連携までを包括的に扱う。
主要な構成プロジェクトとしては、まず「Private Reads & Writes(PSE)」があり、これはプライベートな決済や投票、認証を低コストで実現することを目的としている。
また「Private Proving(PSE)」では、個人や組織が機密情報を開示することなく、資格や資産などを証明できる仕組みの効率化に取り組む。「Private Identities(PSE)」は、選択的情報開示やゼロ知識ID(zkID)を活用し、オンライン上での身元保護を実現するプロジェクトだ。さらに「Privacy Experience(PSE)」では、プライバシー関連プロトコルのユーザー体験(UX)を改善し、一般ユーザーにも使いやすく普及させることを目指している。
加えて、「Institutional Privacy Task Force(IPTF)」は、企業や機関が求める規制・業務要件を技術的なプライバシー仕様へと翻訳し、実際の導入を支援する多分野連携チームである。そして「Kohaku」は、強固な暗号技術を誰もが容易に利用できるようにするためのオープンソースSDK兼ウォレットとして開発が進められている。
発表によれば、イーサリアムはすでに数十億ドル規模の資産と数百万件の取引を支える基盤となっている。EFは「プライバシーはこのインフラを人間の自由と整合的に保つために不可欠」とし、技術・制度・UXすべての層で開発を継続していく姿勢を示した。
また今後も研究者・開発者・企業と協力しながら、イーサリアムのプライバシー基盤を進化させるとしており、「プライバシーは当然のもの(Privacy is normal)」と結んでいる。
なおPSEは9月、プライバシー・スチュワーズ・オブ・イーサリアム(Privacy Stewards of Ethereum)へのリブランディングとともに、包括的なプライバシーロードマップを公開していた。
参考:発表
画像:iStock/ your_photo・Rawpixel