スウェーデン中銀、デジタルクローナの法整備に向けた調査を議会に提起

スウェーデン中銀、デジタルクローナの法整備に向けた調査を提起

スウェーデンの中央銀行であるリクスバンク(Sveriges Riksbank)が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルクローナ(digital krona)」の将来的な導入に備え、必要な法改正を検討するための公的調査を開始するよう議会に提起した。同中銀が10月7日付で議会の財政委員会に提出した書簡を、同月15日に公表した。デジタルクローナの発行や調査の開始は現時点で決定していない。

デジタルクローナは、スウェーデン中央銀行が発行を検討してきたスウェーデンクローナのデジタル版だ。CBDCは中央銀行が発行するデジタル通貨で、民間銀行の預金や、民間企業が発行するステーブルコインとは異なる。リクスバンクは2017年からデジタルクローナの研究を進め、2023年に技術的な実証プロジェクトを終了した。

スウェーデンでは、2023年に公表された政府の決済に関する調査報告書で、当時はデジタルクローナを発行するほど強い社会的ニーズはないと判断されていた。一方、今回の書簡では、地政学的リスクの高まりやデジタルユーロの開発進展、ステーブルコインの普及などを背景に、近い将来に必要性を再評価する可能性があると指摘された。

その一つが、欧州中央銀行(ECB)によるデジタルユーロの開発進展だ。デジタルユーロは、ECBがユーロ圏向けに開発を進めるCBDCで、約3億5,000万人が利用できる決済システムとなる構想だ。ECBは2027年後半に試験運用を開始する予定で、関連するEUの規則が2026年中に成立することを前提に、2029年の発行に向けた準備を進めている。ただし、正式な発行の判断は規則の成立後に行われる。

一方、スウェーデンは欧州連合(EU)加盟国だが、ユーロを導入しておらず、独自通貨のクローナを使用している。スウェーデン中央銀行は、今後のEUの決済サービスやインフラ、法制度がデジタルユーロを前提に整備されるとみている。そのため、スウェーデンに自国通貨に基づく同等の仕組みがなければ、長期的には同国の決済システムの競争力に影響する可能性があると指摘した。

また、スウェーデン中央銀行はデジタルクローナを発行する場合、ECBがデジタルユーロ向けに計画しているインフラを利用することが有利だと説明した。これにより、複数の運用拠点を備えた障害に強い決済基盤を利用できるほか、欧州域内の国際決済を迅速化し、コストを削減できる可能性がある。

さらに、米ドル連動型を中心とするステーブルコインの利用と流通量の増加も挙げられた。ステーブルコインは現在、主に暗号資産(仮想通貨)の取引に利用されているが、将来的には決済手段として広く普及する可能性がある。外国通貨に連動するステーブルコインが普及すれば、スウェーデン国内でもクローナの利用が減少する恐れがある。ただし、スウェーデン中央銀行は短期的には重大なリスクと評価しておらず、長期的には無視できないとしている。

また、同中銀は地政学的状況の悪化を踏まえ、決済システムの耐障害性を強化する必要性も指摘した。デジタルクローナは、スウェーデンや欧州のインフラを利用する追加の決済手段となる可能性がある。さらに、オフライン決済に対応すれば、停電や通信障害が発生した場合にも決済を継続できる可能性があり、決済システム全体の耐障害性向上につながるとのことだ。

導入準備に少なくとも5年、法改正にも追加の時間

スウェーデン中央銀行は、デジタルクローナを導入する場合、同中銀と銀行などの市場参加者による準備作業に少なくとも5年かかると見積もっている。具体的には、ソフトウェア開発や新たな決済基盤への接続、既存システムとの統合などが必要になる。なお、この期間には法改正に必要な時間は含まれていない。

法制度については、デジタルクローナを規定する新たな法律の制定や、既存法の改正が必要になる可能性が高い。検討事項には、デジタルクローナの法的地位や利用条件、民間事業者との役割分担、オフライン利用などが含まれる。また、プライバシー保護も重要な論点となる。スウェーデン中央銀行は、デジタルユーロの規則案と同様に、中央銀行が利用者の決済内容を監視できない仕組みを設けることが可能だと説明している。

こうした準備に長い時間を要するため、スウェーデン中央銀行は、最終的にデジタルクローナを発行しない場合や導入を延期する場合でも、法整備の検討を今から始めることには合理性があると説明した。なお、2023年の政府調査では法改正の必要性が検討されたものの、具体的な法改正案は示されていなかった。

スウェーデン中央銀行法では、スウェーデン中央銀行がデジタル決済手段を発行するには議会の同意が必要と定められている。同中銀は、議会が法整備に向けた調査の開始を決めた場合、必要に応じて協力する用意があると表明した。また、財政委員会が希望する場合には、調査事項に関するより詳細な提案を提出できるとしている。その時期については、デジタルユーロに関するEUの規則が確定した後が望ましいとのことだ。

参考:書簡
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者 ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。