イーサリアム「EIP-8363」がヘゴタへの採用検討から撤回、ETH発行政策は別プロセスで議論へ

ステーキング報酬の一部バーン案、ヘゴタへの採用検討から撤回

イーサリアム(Ethereum)のステーキング報酬の一部をバーン(焼却)する改善提案「EIP-8363」が、将来のネットワークアップグレード「ヘゴタ(Hegotá)」への採用検討から撤回された。フランス語圏でイーサリアムの普及に取り組む非営利団体イーサリアム・フランス(Ethereum France)代表で、EIP-8363の共同執筆者であるジェローム・ドゥ・ティシェイ(Jérôme de Tychey)氏が10月1日に自身のXアカウントで発表した。

EIP(Ethereum Improvement Proposal)は、イーサリアムの仕様や規格などの変更を提案する文書だ。このうちネットワークの仕様変更に関するEIPは、議論や開発者による検討を経て、採用された場合にネットワークのアップグレードへ組み込まれる。なお、EIP-8363自体は現在も提案段階にあり、今回撤回されたのは同提案そのものではなく、ヘゴタへの採用検討だ。

イーサリアムでは、ETHをステーキングしたバリデータがブロックの生成や検証などネットワークの運営に参加し、その対価の一部として新たに発行されるETHを受け取る。一方、EIP-8363の執筆者らは、現在の仕組みではステーキング比率が上昇しても新規発行による報酬が残り、ステーキングをさらに増やすインセンティブがなくなる明確な水準がないことを問題視している。

また執筆者らは、ステーキング比率が非常に高くなると、ステーキング事業者などへのETHの集中が進む可能性があると指摘している。また執筆者らは、ステーキングしていないETH保有者が新規発行による希薄化の影響を受けると指摘している。このためEIP-8363は、イーサリアムのセキュリティや中立性、特定の主体による支配への耐性を維持するとともに、ETHの通貨としての役割を守ることを目的としている。

そこでEIP-8363は、ネットワーク全体でステーキングされるETHの割合が高まるほど、バリデータ報酬の一部として新規発行されるETHからバーンする割合を増やす仕組みを提案している。具体的には、ステーキング比率が50%に達すると、新規発行によるバリデータ報酬と同額をバーンする。これにより、新規発行によってステーキング比率が50%を超えて拡大するインセンティブをなくす設計だ。

一方、EIP-8363の具体的な設計を巡っては多くの議論が起きた。ティシェイ氏によると、同提案には数週間で200件を超えるコメントが寄せられた。議論では、ステーキング比率を下げることでセキュリティがどのように変わるのか、ステーキング利回りを前提とする業界への影響、ステーキング比率に応じて報酬を変える設計が適切なのか、バリデータの構成やソロステーカーへの影響などが主な論点になったとのことだ。

こうした議論が続く中、ヘゴタへの採用を検討する「CFI(Consideration For Inclusion)」のプロセスでは、複数の業界関係者やイーサリアムのコアプロトコル、クライアントの開発者から意見が寄せられた。ティシェイ氏によると、こうした関係者はETHの発行方針の変更について、フォークの対象範囲を決めるプロセスで扱うことは適切ではないと指摘した。EIP-8363の執筆者らはこの意見に同意し、同提案をヘゴタへの採用検討から撤回した。

一方、ティシェイ氏はEIP-8363が示した問題意識については引き続き支持すると説明している。そのため今後は、ETHの発行方針についてヘゴタへの採用検討とは切り離したプロセスで議論する方針だ。

現時点の計画では、今年11月の「デブコン(Devcon)」で発行方針に関するフォーラムを開催し、その後もワークショップなどを実施する。2027年4月の「EthCC」まで議論を進める予定で、リキッドステーキングプロトコルのライド(Lido)なども、この取り組みへの協力を申し出ているという。

画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者 ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。