米SEC、トークン化株式のオンチェーン取引に条件付き適用除外

適用除外期限は5年

米証券取引委員会(SEC)が、トークン化されたNMS株式(全米市場システム株式)のオンチェーン取引を可能にするための「イノベーション適用除外(Innovation Exemption)」を9月17日に発表した。

今回の措置は、一定の条件のもとでトークン化株式のオンチェーン取引を認め、その運用状況や市場データを踏まえながら、将来の恒久的なルール策定を検討するための期限付きの枠組みとなる。

SECのポール・アトキンス(Paul S. Atkins)委員長は今回の措置を「重要な第一歩」と位置づけ、恒久的なルール策定に向けた橋渡しになるとの考えを示している。

具体的には、トークン化NMS株式を取引する「トークン化証券ベニュー(Tokenized Securities Venue:TSV)」について、一定の条件を満たす場合、1934年証券取引所法上の「取引所(exchange)」の定義から一時的に除外する。

TSVは、参加者を限定した自動マーケットメーカー(AMM)および流動性プールを通じて、トークン化NMS株式の買い手と売り手を結びつける取引基盤だ。

なお参加者のアクセスは許可制となる一方、TSVが利用するスマートコントラクトは監査可能かつ公開され、パーミッションレスな公開分散型台帳上に展開することが求められる。

適用除外には、投資家保護や市場の健全性を確保するため複数の条件が設けられている。

取引可能な銘柄数や取引量には上限が設けられるほか、TSVは取引対象となるトークン化株式が、対応する従来のNMS株式と同等の配当受領や議決権行使などの権利を保有者に与えることを確認する必要がある。

また発行体と関係のない第三者が株式をトークン化した場合には、TSVは取引開始に先立ち、原株式の発行体に書面で通知する必要がある。発行体が通知を受領してから少なくとも30日間は取引を開始できず、この期間内に発行体が書面で異議を申し立てた場合、そのTSVでは当該株式を取り扱えない。

原株式が主要上場取引所で取引停止となった場合には、TSV上のトークン化株式についても取引を停止することが求められる。

TSVには、自社の運営状況や取引活動、関連会社によるTSV上での取引活動について公開通知を行う義務も課される。

今回の命令ではこの他、TSVのAMM流動性プールに自己資本で流動性を提供する一定の事業者について、取引所法第3条(a)(5)項に定める「ディーラー(dealer)」の定義から一時的かつ条件付きで除外する措置も設けられた。

対象となる事業者には、自己資本を用いて流動性を供給するほか、顧客への価格提示や資本提供を約束する契約の締結など、通常はディーラー業務の特徴となり得る活動を行う流動性提供者も含まれる。

なお今回の適用除外は、連邦証券法に基づく詐欺や相場操縦の禁止など、その他の適用法令からの免除を与えるものではない。

適用除外の期間は2026年9月17日から2031年9月17日までの5年間。SECは今回の制度についてパブリックコメントも募集しており、制度の修正や追加対応、将来のルール策定を検討する材料とする。

「資本市場をデジタル時代へ」

アトキンス委員長は声明で、今回のイノベーション適用除外について、SECが法定権限の範囲内で一部のトークン化株式のオンチェーン取引を促進し、「米国の資本市場をデジタル時代へと前進させる重要な一歩」だと説明した。

同氏によると、この適用除外は、SECがオンチェーン取引を促進するために追加的な対応が必要かを検討する間、TSVが許可制の環境でトークン化NMS株式を取引できるようにするものだ。

またSECは、現在の技術を将来の標準として固定するのではなく、市場の発展を認め、その動向から得られる知見を今後の規制枠組みに反映していくとしている。

アトキンス氏は今回の措置について「第一歩」だとした上で、イノベーション適用除外のあらゆる側面について広く意見を募る考えを示した。

さらに同氏は、今回の暫定措置に続いて恒久的なルール策定を行う必要があるとの認識も示している。

SEC取引市場局(Division of Trading and Markets)のジェイミー・セルウェイ(Jamie Selway)局長も、今回の適用除外について「トークン化証券に向けて資本市場を開くSECの取り組みにおける重要な節目」とコメントした。

同局は今後、TSVの運営を検討する事業者と協働し、市場参加者からの質問にも対応していくとしている。

SECのマーク・ウエダ(Mark T. Uyeda)委員も同日、イノベーション適用除外に関する声明を発表した。

ウエダ氏は、トークン化には証券の発行、取引、移転、決済、所有権記録といった市場インフラの中核機能を近代化する可能性があると指摘した。

これにより、コストの削減や透明性の向上、流動性の拡大につながる可能性があり、特にこれまで流動性が低かった資産で効果が期待できるとの見方を示している。

また同氏は、証券市場が紙の証書を中心とした仕組みから電子的な処理へ移行してきた歴史を挙げ、新たな技術を既存の法的枠組みに無理に押し込めるのではなく、投資家保護と市場の健全性を維持しつつ、技術中立的な規制によって新たな市場構造に対応すべきだとした。

さらにウエダ氏は、議会が「全米証券市場改善法(National Securities Markets Improvement Act)」を通じてSECに一般的な適用除外権限を付与したことにも言及。

こうした適用除外を活用した過去の取り組みが、マネー・マーケット・ファンド(MMF)、インデックスファンド、上場投資信託(ETF)など、現在広く利用されている金融商品につながったと説明した。

今回の制度では、米ドル建ての取引価格、取引数量、取引時刻などのデータを、取引発生から10分以内に更新して公開することが求められる。流動性プールのスマートコントラクトアドレスや、日次の取引量、1日の終了時点のプール規模なども公開される。

ウエダ氏は、こうした情報公開が情報の非対称性の縮小や市場監視を支援するとともに、適用除外のもとで行われる証券取引を研究するためのデータになるとしている。

また、具体的な指標や事例研究、インシデント分析、実運用または試験環境から得られた知見を含むパブリックコメントが、今後の制度設計を検討する上で有用になるとの期待も示した。

参考:SECSEC2
画像:Reuters

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者