シンガポール金融管理局、ステーブルコイン規制法制化へPS法改正案を公表

「MAS規制ステーブルコイン」を法的に定義

シンガポール金融管理局(MAS)が、ステーブルコイン規制の枠組みを法制化するため、「支払サービス法(Payment Services Act:PS Act)」の改正案を公表した。MASが9月1日にコンサルテーション・ペーパー(協議文書、P015-2026)を公開した。意見募集の期限は10月16日だ。

MASは2022年10月にステーブルコイン関連活動の規制方針に関する協議文書を公表。2023年8月には、シンガポールで発行され、シンガポールドルまたはG10通貨に連動する単一通貨ステーブルコインを対象とした「MAS-SCSフレームワーク」を取りまとめていた。

今回の協議文書では、この方針をPS Actに反映するための改正案に加え、2023年以降の市場や海外の規制動向を踏まえた追加的な規制案が示されている。

改正案では、PS Actに「ステーブルコイン(stablecoin)」および「MAS規制ステーブルコイン(MAS-regulated stablecoin)」の定義を新設する。

ステーブルコインは原則としてデジタル支払トークン(DPT)の一種として扱う一方、電子マネー(e-money)の定義からは除外する。

また新たに「ステーブルコイン発行(stablecoin issuance)」ライセンスを設ける。自ら発行するステーブルコインを「MAS規制ステーブルコイン」と表示・標榜する発行体は、同ライセンスを取得する必要がある。

発行体の事業は原則としてステーブルコインの発行・償還や準備資産管理など、発行およびそれに付随する業務に限定される。

MASは追加要件として、発行体によるステーブルコイン保有者への利息やリターンなどの付与を禁止する案を提示した。ステーブルコインを投資・貯蓄商品ではなく、決済手段として位置付ける狙いがある。

また顧客から受け取った資金を貸し付けることや、当該資金およびそこから生じる利息を事業活動の全部または相当部分の資金に充てることを制限すべきかについても意見を求める。

準備資産については、一定割合を現金または銀行預金として保有させる最低流動性要件の導入を検討する。MASは参考例として、英国やEUでは非システミックなステーブルコインで5~30%、システミックなものでは40~60%の最低預金比率が設けられている、または導入予定だと説明している。

このほか、ステーブルコインの総発行額や個人の保有額への上限設定についても意見を募集する。

AML/CFT対策では、違法活動に利用された、または違法活動を支援したステーブルコインについて、発行体が追跡(trace)、凍結(freeze)および/または焼却(burn)できる技術的能力を持つことを求める案を提示した。

さらに少なくとも四半期ごとのストレステストや、再建計画(recovery plan)、秩序ある事業撤退計画(orderly wind-down plan)の策定も求める方針だ。

PS Actに新設する第2A部(Part 2A)では、MASが特定のステーブルコインを「指定システミック・ステーブルコイン(Designated Systemic Stablecoin)」に指定できる制度を設ける。

国内外での発行やMASによる規制の有無を問わず指定対象となり得る。指定にあたっては、流通規模やシンガポールの決済・金融システムとの相互連関性、代替可能性などが考慮される。

指定されたステーブルコインがMASの要件を満たさない場合、MASはDPTサービス事業者に対し、取り扱い停止や上場廃止などを命じることが可能になる。

MASは、複数法域にまたがって同一のステーブルコインを発行する「Multi-Jurisdictional Issuance(MJI)」についても方針を変更する。

2023年時点では、MJIで発行されたステーブルコインをMAS-SCSフレームワークの対象として認めないとしていたが、今回の改正案では、海外の共同発行体がMAS-SCSと実質的に同等の規制を受けていることや、世界全体の流通額に対して100%以上の準備資産が確保されていることなどを条件に、ケース・バイ・ケースで一部要件の適用除外を認める仕組みを提案した。

また新設する第2B部(Part 2B)では、MAS-SCSと実質的に同等の海外規制下にあるステーブルコインを「MAS認定ステーブルコイン(MAS-recognised stablecoin)」とする制度も提案している。

銀行やマーチャントバンクがMAS規制ステーブルコインを発行する場合は、銀行本体とは別の非銀行法人を設立し、その法人がステーブルコイン発行ライセンスを取得することを求める。

またホールセールバンクやマーチャントバンクによるシンガポールドル建てステーブルコインについては、既存の預金受入規制との整合性から、一般個人による取得・保有が実質的に制限される。

またMAS規制ステーブルコインの認可や海外ステーブルコインの認定について、「選択的かつリスクベース(selective and risk-based)」のアプローチを取る方針を示している。発行体の財務健全性や事業の持続可能性、運用実績などを審査し、認可・認定するステーブルコインは限定的な数になるとしている。

なお今回の内容はPS Actの改正案などに関する意見募集段階であり、改正法は現時点で成立・施行していない。関連する下位法令については、MASが別途意見募集を行う予定だ。

参考:発表
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者