イーサリアムのステーキング報酬見直し案が提案
イーサリアム(Ethereum)のバリデーター報酬の一部をバーン(焼却)し、ステーキング報酬を段階的に引き下げる新たな提案「EIP-8363(Tapered Issuance Burn)」が、イーサリアム改善提案(EIP)として8月4日に提出された。
同提案は、イーサリアム・フランス(Ethereum France)会長のジェローム・ド・ティシェ(Jerome de Tychey)氏や、イーサリアム財団(Ethereum Foundation)の研究者ジャスティン・ドレイク(Justin Drake)氏ら6人が共同で提出したもの。ド・ティシェ氏は、この提案について、「ETH供給量の50%を超えるステーク拡大へのインセンティブを取り除く、市場主導型の最小限の発行政策修正」だと説明した。
ただし、EIP-8363は現時点ではドラフト段階の提案であり、イーサリアムの正式なアップグレードへの採用は決まっていない。
現在のイーサリアムでは、ETHをネットワークへ預ける「ステーキング」を行うことで報酬を受け取れる。ネットワーク全体でステーキングされるETHが増えると、バリデーターが得られる利回りは低下する仕組みだ。
一方、提案者らによれば、現在の設計ではETH供給量のすべてがステーキングされた場合でも発行報酬による年間利回りが約1.5%残るという。そのため、ステーキング比率(ETH総供給量のうち、ステーキングされている割合)が上昇し続けても、ステーキングを続ける経済的なインセンティブは完全にはなくならないとの考えを示した。
今回の提案の背景には、「ステーキング比率が高くなり過ぎることは、イーサリアムにとって望ましいのか」という議論がある。
提案者らは、ステーキング比率が上昇し続けると、個人でバリデーターを運営するソロステーカーが参加しづらくなる一方、取引所やステーキングサービスなど大規模事業者へETHが集中しやすくなる可能性があると指摘した。
また、ステーキングしたETHを裏付けに発行されるLST(Liquid Staking Token)がエコシステム内で広く利用されることで、中立的な資産であるETHよりも発行体への依存が強まるとの懸念も示した。
さらに提案者らは、何も対策を講じなければ2028年初頭までに7,000万ETH以上がステーキングされ、ETH供給量の55%超に達する可能性があるとの試算も示した。
こうした背景を踏まえ、EIP-8363では、バリデーターへ支払われる発行報酬の一部を段階的にバーンする。ステーキング比率が50%へ近づくにつれてバーン率が高まり、同水準に到達すると発行報酬は実質的にゼロとなる設計だ。一方で、利用者が追加で支払う優先手数料やMEV(最大抽出可能価値)などの収益は引き続き受け取れる。
提案者らは、この変更によって、市場が求める利回り水準に応じてステーキング比率が決まるようになり、現在の発行ルールによって維持されている利回りの下限を取り除けると説明した。
また提案では、年間発行率はステーキング比率約20%付近で約0.5%をピークとし、その後は低下を続け、50%でゼロになる設計としている。さらに、現在導入されている取引手数料のバーン(EIP-1559)や、ブロブ(Blob)手数料のバーンと組み合わせることで、ETH供給量が減少する局面が増える可能性があるとのこと。
なお、この提案は約18カ月かけて報酬水準を段階的に引き下げる設計となっており、ハードフォークまでの準備期間も含めると、全体で約2年程度をかけて移行する想定だ。
コミュニティでは早くも反対意見も
今回の提案に対しては、コミュニティから複数の反対意見も上がっている。
分散型バリデーター技術を開発するオボル(Obol)の共同創業者オイシン・カイン(Oisin Kyne)氏は、「イーサリアムの安全性は、どれだけETHがステーキングされているかではなく、誰がフォークの選択を支配できるかによって決まる」と指摘した。また、発行報酬をゼロへ近づける設計では、価格変動に左右されにくい大規模事業者が相対的に有利となり、かえって分散性を損なう可能性があるとの見解を示した。
また、分散型金融(DeFi)プロトコル「アーベ(Aave)」の創設者スタニ・クレチョフ(Stani Kulechov)氏も、この提案は「目指す結果は得られず、むしろイーサリアムに悪影響を及ぼす」と主張した。
同氏は、ステーキング比率約50%付近でゼロへ近づく設計により、将来の利回りが予測しづらくなり、機関投資家やソロステーカーにとって魅力が低下する可能性があると指摘した。また、ETHを活用したレンディングや利回り戦略などDeFiでのユースケースにも悪影響を及ぼし、利回りを求める資金がステーブルコインなど他の資産へ流出する可能性があるとの見解を示した。さらに、「イーサリアムは成長したことを理由に罰せられるべきではない」とも述べ、提案に反対する姿勢を示した。
イーサリアム開発者コミュニティでは、今回提出されたEIP-8363を巡り、発行量政策やステーキング設計の在り方について議論が進められる見込みだ。ネットワークの分散性やETHの金融資産としての魅力、DeFiへの影響などが主な論点になるとみられる。
🚨 New EIP: Tapered Issuance Burn
— Jerome de Tychey 🦇🔊 (@jdetychey) August 4, 2026
We just submitted an EIP to ethereum/EIPs: a minimal, market-driven fix to Ethereum’s issuance policy removing the incentive for stake growth beyond 50% of ETH supply.
EIP-8361 by @pintail_xyz, @jdetychey, @dapplion, @pa7x1, @ladislaus0x &… pic.twitter.com/g1uzWPycQ4
Ethereum’s security is not how much eth is staked, its how hard it is to control fork choice. A curve that goes to 0 at a reachable level will allow the biggest and most price insensitive orgs in the space to price out the vast majority of rational actors, such that they can… https://t.co/3BmWtXzEpJ
— oisin.eth | Obol (@OisinKyne) August 4, 2026
Unfortunately this proposal doesn’t achieve the outcome it tries to achieve and is actually hurtful for Ethereum.
— Stani (@StaniKulechov) August 4, 2026
It caps Ethereum staking rewards to 0% when over 50% of supply staked.
What this mean is that Ethereum staking yield becomes unpredictable and even fully… https://t.co/IYUst52Dt3
参考:GitHub・イーサリアムリサーチ
画像:PIXTA