ペイパルに約8.6兆円の買収提案か、ストライプとアドベントが共同保有へ=関係筋

ストライプとアドベントがペイパルに買収提案か

米済大手ストライプ(Stripe)とプライベートエクイティ(PE)投資会社アドベント・インターナショナル(Advent International)が、ペイパル・ホールディングス(PayPal Holdings)に対し、1株60.50ドル(約9,811円)で共同買収を提案したようだ。提案は、ペイパルの株式価値を530億ドル(約8兆5,945億円)超と評価する内容だという。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。

関係者の1人によると、提案は7月上旬に提出され、銀行から約500億ドル(約8兆1,080億円)の融資確約を得ている。提示額は、ペイパル株の7月14日終値に約28%を上乗せした水準となる。

買収協議が非公開であることを理由に、関係者は匿名を条件に取材に応じた。ペイパル、ストライプ、アドベントはいずれもコメントを控えた。ロイターが米国時間7月14日夜に最初に報じた。

インターネット事業者向け決済基盤として広く利用されるストライプとペイパルが統合すれば、年間約3兆7,000億ドル(約600兆円)の決済を処理する世界最大級のオンライン決済会社が誕生する。

関係者によると今回の提案に先立ち、ストライプとアドベントは4月上旬に最初の打診を行っていたとのこと。両社はペイパルから回答を受け取っておらず、今後数週間で協議を進めたい考えだという。

提案では、ペイパルを分割せず、ストライプとアドベントが同率の持ち分で共同保有するとのこと。関係者は、今回の打診が買収成立につながる保証はないとも述べた。

買収報道を受け、ペイパル株は7月15日の取引で前日比約17%上昇した。

ペイパルは1990年代後半に設立され、デジタル決済の先駆者となった。しかし、消費者が多様な決済手段を利用するようになり、アップルペイ(Apple Pay)やグーグルペイ(Google Pay)などが市場シェアを拡大する中、競争に直面している。

ペイパルは過去数年間、成長鈍化とデジタル決済市場の競争激化に苦しみ、パンデミック期に増加した企業価値の大半を失った。

ペイパルの時価総額は2021年に約3,600億ドル(約58兆3,776億円)でピークを付けたが、2026年には一時約360億ドル(約5兆8,378億円)まで落ち込んだ。買収報道前の7月14日時点では、過去12カ月で時価総額の40%超を失っていた。

3月に就任したペイパルのエンリケ・ロレス(Enrique Lores)CEOは、事業構造を簡素化し、成長分野へ経営資源を集中させる大規模な再建策に着手した。

同社は4月、事業を「チェックアウト・ソリューションズ&ペイパル(Checkout Solutions & PayPal)」、「消費者向け金融サービス&ベンモ(Consumer Financial Services & Venmo)」、「決済サービス&暗号資産(Payment Services & Crypto)」の3部門に再編し、一連の経営陣刷新も実施した。

提示額にはプレミアムが付いているものの、ウィリアム・ブレア(William Blair)のアナリストであるアンドリュー・ジェフリー(Andrew Jeffrey)氏は、「ペイパルの新CEOが、安値での買収提案とも受け取れる今回の条件を受け入れる可能性は低い。現在の提案が交渉の初手であれば、ストライプとアドベントは1株70ドル(約1万1,351円)まで引き上げる可能性がある」と述べた。

決済処理の巨大企業誕生へ

今回の統合が持つ戦略的な魅力は、ストライプの事業が事業者向けサービスを中心とする一方、ペイパルが2026年第1四半期末時点で4億3,900万件のアクティブアカウントを持ち、消費者と直接つながる決済・金融サービスの顧客基盤を有している点にある。

TDコーウェン(TD Cowen)のアナリストでありブライアン・バーギン(Bryan Bergin)氏は、ペイパルの消費者向けサービスについて、ストライプによるデジタルウォレット事業の拡充を「大幅に加速させる上で魅力的になり得る」と述べた。

この買収により、ストライプは大規模な利用者基盤を通じて消費者と直接つながり、将来的に金融サービスを展開する機会も得る。ペイパルは最近、この分野への取り組みを強化している。

ストライプは、ベンモの個人間送金ネットワークや、消費者向けに広く利用されているペイパルのチェックアウトボタンも獲得する。

ストライプとペイパルが統合すれば、より多くの取引を自社ネットワーク内で処理できるようになる。これにより、ビザ(Visa)やマスターカード(Mastercard)などの外部決済ネットワークへの依存度を下げ、手数料負担を抑えることで、決済1件当たりの収益を増やせる可能性がある。

また、ペイパルの大規模な消費者基盤を活用することで、ステーブルコイン決済の本格普及を促し、ストライプのステーブルコイン事業を後押しする可能性もある。ストライプは、2025年2月に買収を完了したステーブルコイン基盤「ブリッジ(Bridge)」へ多額の資金を投じている。

世界の決済業界で相次ぐM&A

ペイパルの買収が成立すれば、金融技術の急速な変化や人工知能(AI)の台頭を背景に活発化している、世界の決済業界におけるM&Aの新たな事例となる。

従来型の決済処理事業の成長が鈍化する中、決済企業はM&Aを通じた事業規模の拡大に加え、クロスボーダー決済や企業間決済など、成長率の高い分野への進出を強めている。

グローバル・ペイメンツ(Global Payments)は2025年、複雑な3社間取引の一環として、競合するワールドペイ(Worldpay)をFISとPE投資会社GTCRから242億5,000万ドル(約3兆9,324億円)で買収することで合意した。買収は2026年1月に完了した。この取引では、GTCRが保有する55%の株式を売却し、FISも残る45%の持ち分を手放した。

決済業界では小規模な取引も相次いでいる。カナダの決済企業ヌベイ(Nuvei)は、ペイオニア・グローバル(Payoneer Global)を27億5,000万ドル(約4,459億円)で買収することで合意した。取引はペイオニアの株主や規制当局の承認などを条件に、2027年半ばの完了を予定している。ヌベイには、アドベントなどが出資している。

またマスターカードは、重要な決済資産が米国企業の傘下にあることへの懸念に対応するため、英国の決済子会社ボーカリンク(Vocalink)の過半数株式を英国の銀行へ売り戻すことを検討している。英紙「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)」が今週報じた。

ペイパルの第1四半期売上高は前年同期比7%増の83億5,000万ドル(約1兆3,540億円)となり、アナリスト予想の平均である80億5,000万ドル(約1兆3,054億円)を上回った。総決済取扱高は前年同期比11%増の約4,640億ドル(約75兆2,422億円)となった。為替変動の影響を除くベースでは8%増だった。

ロレスCEOは5月、AIを活用して全社的な業務を効率化し、組織階層の重複を解消する計画を示したが、詳細には言及しなかった。

ペイパルによると、これらの取り組みにより、今後2~3年で年間換算の総コストを少なくとも15億ドル(約2,432億円)削減できる見通しだ。同社は、この削減効果を新たな成長投資へ振り向ける方針を示している。

未上場のストライプは、決済業界で企業価値が最も高い企業の1社である。同社は2月、現・元従業員に流動性を提供するテンダーオファーを実施し、企業価値は1,590億ドル(約25兆7,834億円)と評価された。これは、前年に実施した同様の取引時から70%超の増加となる。

ストライプは、ジョン・コリソン(John Collison)氏とパトリック・コリソン(Patrick Collison)氏の兄弟が2010年に設立した。同社は、企業向けに決済の受け付けや支払いの実行、金融業務の自動化を可能にするサービスを提供している。

※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
Stripe, Advent offer to buy PayPal for more than $53 billion, sources say
(Reporting by Milana Vinn in New York; Additional reporting by Deborah Sophia and Rashika Singh; Editing by Echo Wang, Sumeet Chatterjee, Lincoln Feast and Arun Koyyur)
参考:香港SFChttps://www.sfc.hk/en/Welcome-to-the-Fintech-Contact-Point/Virtual-assets/Virtual-asset-trading-platforms-operators/Lists-of-virtual-asset-trading-platforms
翻訳:大津賀新也(あたらしい経済)
画像:Reuters

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大津賀新也

「あたらしい経済」編集部 副編集長 ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

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