ニックスファウンデーション、イーサリアム次世代クライアント「Verity」開発開始

イーサリアムの次世代設計に対応したクライアントを開発

イーサリアム(Ethereum)に特化した研究機関「一般社団法人ニックス・ファウンデーション(Nyx Foundation:以下、Nyx)」が、イーサリアム(Ethereum)の次世代コンセンサス層「リーン・コンセンサス(Lean Consensus)」に対応する新規クライアント「ベリティ(Verity)」の開発開始を4月7日に発表した。

ベリティ開発の背景には、イーサリアムが進める大規模な技術更新がある。

ひとつは、量子コンピュータの進展を見据えた「耐量子暗号(PQC)」への移行だ。現在のブロックチェーンでは、デジタル署名によって取引の正当性を証明しているが、将来的に量子コンピュータが実用化された場合、既存の暗号方式が破られる可能性が指摘されている。このためイーサリアムでは、ハッシュベース署名「XMSS」など、量子耐性を持つ新たな暗号方式への移行が検討されている。

もうひとつは「リーン・コンセンサス」と呼ばれる設計刷新だ。これは、イーサリアムメインネットの合意形成の仕組みを見直し、処理性能と安全性の両立を図る取り組みである。具体的には、取引確定時間の短縮やzkVM(ゼロ知識証明を用いた仮想マシン)を用いた署名集約などが議論されている。

同構想は、イーサリアム財団(Ethereum Foundation)の研究者ジャスティン・ドレイク(Justin Drake)氏が提唱するビジョン「リーン・イーサリアム(Lean Ethereum)」の中核プロジェクトに位置付けられている。

なお、イーサリアムでは従来から、複数のクライアント実装を維持する「クライアント多様性」によって、特定のソフトウェアに依存するリスクを分散してきた。異なる設計や開発チームによる実装を並行して稼働させることで、バグや障害がネットワーク全体に波及することを防ぐ仕組みだ。

一方で、耐量子暗号やリーン・コンセンサスへの移行は、ブロックチェーンの根幹に関わる大規模な改修となる。このため、実装の複雑性が増し、従来以上にバグや不具合が発生するリスクが高まるとされる。

こうした背景のもと、Nyxは新たな設計思想に基づく独立したクライアントとしてベリティを開発する。同クライアントは、ソフトウェアの正しさを数学的に証明する「形式検証」を中核に据え、「最もセキュアなクライアント」の実現を目指すとしている。

形式検証とは、ソフトウェアが仕様通りに動作することを数学的に証明する手法だ。従来のソフトウェア開発では、実装後にテストを行い、特定の条件下で問題がないことを確認する。一方で形式検証では、仕様の範囲内においてバグが存在しないことを証明するため、セキュリティ保証の水準が根本的に異なるとされる。

なお今回の開発について「あたらしい経済」編集部がベリティの開発責任者である津田匠貴氏へ取材したころ、「リーン・コンセンサスではPQC移行やファストファイナリティなど、イーサリアムに存在した根本的な課題の解決が試みられている」としたうえで、「こうした大規模な仕様変更において、仕様の安全性を担保しつつ実装すること自体が難しい」との回答を得た。

また同氏によると、現在はリーン・コンセンサスに基づく複数のクライアント開発が進められているという。現在8つのクライアントが開発ネットワーク(devnet)に参加していることがリーン・コンセンサスの研究開発の進捗ページでも示されている。一方で、Nyxが開発するベリティは、今後同ネットワークへの参加が予定されている新たな実装となる。

ベリティでは、プロトコル仕様全体を「Lean4言語」で形式化し、その仕様に矛盾や欠陥がないことを証明した上で実装を行う。このアプローチにより、仕様と実装の乖離を防ぐことを狙うとしている。

また近年はAIによるコード生成の普及により、コード作成のハードルが下がる一方で、その正確性をどのように担保するかが課題となっている。形式検証は、こうした課題に対する手法のひとつとして関心が高まっている。

ベリティの開発はイーサリアム財団のロードマップに沿って進められる予定だ。2026年前半にプロトタイプ実装、後半に開発ネットワークへの参加が計画されている。また同年10月には、耐量子暗号に関する国際ワークショップへの参加も予定されている。さらに、2029年ごろのメインネット対応を目標としている。

なお、イーサリアムをめぐっては、クライアントのあり方そのものを見直す議論も進んでいる。

イーサリアム共同創業者のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏は今年3月、現在のコンセンサスクライアントと実行クライアントの分離構成について、見直しにオープンであるべきとの考えを示している。ノード運用における複雑性の高さが課題であると指摘した。同氏は、次世代構想「リーン・イーサリアム」の成熟に伴い、アーキテクチャ全体の再設計が必要になる可能性にも言及している。

今回のNyxによるクライアント開発も、こうした次世代設計を見据えた動きの一環と位置付けられる。

参考:プレスリリースリーン・コンセンサス研究開発進捗
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者 ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。