ポリマーケットの軍事関連市場にインサイダー疑惑
予測市場ポリマーケット(Polymarket)の国際版プラットフォーム「ポリマーケット・インターナショナル(Polymarket International)」で、150を超えるウォレットが米軍の内部情報を利用して取引した可能性があると、8月20日に公表された調査が指摘した。
こうした取引には追随する賭けが集まっており、外国の敵対勢力が悪用できるシグナルを市場が発信してしまうとの懸念も高まっている。
ロイターが初めて報じた非営利調査団体「反汚職データ・コレクティブ(Anti-Corruption Data Collective:ACDC)」の分析は、予測市場で軍事情報を巡るインサイダー取引が行われた可能性と、それがもたらす幅広いリスクを新たに示した。
予測市場業界が急拡大するなか、米軍による軍事行動に先立って賭けが行われた事例を受け、政策当局者は監視を強めている。
こうした事例には、1月のベネズエラのニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領の拘束・失脚を巡り、機密情報を利用して賭けたとして4月に起訴された米兵のケースも含まれる。議員らは、このような行為が国家安全保障を損なう恐れがあると指摘している。
2020年設立のポリマーケットの広報担当者は、コメント要請に応じなかった。同社は、厳格な管理体制を敷いて不審な活動を綿密に監視しており、マドゥロ氏の事例を含め、数十のトレーダーウォレットを当局に通報したとしている。
ポリマーケットの国際版プラットフォームでは、取引がブロックチェーン上で清算される。このため賭けの内容は公開されている一方、トレーダーの身元は匿名のままだ。
ACDCは5月5日までに結果が確定した全市場を分析し、「大穴賭け」を抽出した。同団体は大穴賭けについて、成立確率が35%以下の結果に対し、1時間以内に累計2,500ドル(約40万円)以上を投じた賭けと定義している。
ACDCは、こうした大穴賭けを行ったウォレットのうち、取引する市場やテーマが少数に絞られ、大穴賭けの勝率が75%を超えるといった特徴を持つ556ウォレットを「オルカ(Orcas)」と名付けた。シャチが正確かつ選択的に獲物を狩る習性にちなんだ名称だ。
こうしたトレーダーは通常、口座開設後すぐに、内部者が情報面で優位に立ち得るニッチな市場で大穴賭けを成功させていた。多くの場合、その後に資金を引き出し、取引活動を停止していた。
このうち、軍事・防衛関連市場に賭けて異例の高い成績を収めたウォレットは152に上った。合計利益は800万ドル(約12億6,736万円)で、平均勝率は97.2%だった。
ただしACDCは、オルカに見られる特徴は単なる幸運など、別の理由でも説明できると指摘している。また、内部情報を利用した可能性のあるトレーダーが、すべてオルカに該当するわけでもない。
検察によると、マドゥロ氏の拘束・失脚に賭けて40万ドル(約6,337万円)を稼いだ米兵のギャノン・ケン・バン・ダイク(Gannon Ken Van Dyke)被告は、時間をかけてポジションを積み上げていた。このため、今回特定された軍事関連の152のオルカには含まれていない。バン・ダイク被告は無罪を主張している。
それでも報告書は、この152ウォレットが軍事機密を利用して取引した可能性が最も高い一群だと指摘した。このうち一部は、これまでにも他の研究者やメディアから指摘されていたが、ACDCは未報告だったウォレットをさらに数十件特定したとしている。
米国防総省の広報担当者は、インテリジェンス関連事項や第三者による調査結果についてはコメントしないと述べた。
追随取引でインサイダー取引のシグナルが増幅する恐れ
政府の機密情報を使って利益を得る行為は一般に違法だ。しかしACDCは、それ以上に懸念される点として、軍事関連のオルカによる取引が、資金力のある「クジラ(Whales)」や自動売買ボットによる追随賭けを呼び込んでいる形跡を挙げた。
追随取引自体は合法であり、予測市場では以前から確認されている。ただしACDCは、追随取引がオルカによる取引のシグナルを増幅し、より広範囲へ伝播させている可能性を示す兆候を発見した。
例えば2025年6月、米軍によるイラン攻撃の数時間前に、あるオルカが同国での米軍事行動に賭けると、ボットとクジラがそれぞれ20万ドル(約3,168万円)と10万ドル(約1,584万円)の追随賭けを行った。
また2026年2月の米国・イスラエルによるテヘラン空爆前にも、オルカによる同様の賭けをきっかけに、ボットやクジラが同じ結果を対象に初めて大穴賭けを行う動きが相次いだ形跡が確認されたという。
ACDC共同創設者のデービッド・ザコニ(David Szakonyi)氏は、「ポリマーケット上の異例な賭けの動きが、実際にはどれほど簡単に観察できるかを、ほとんどの人は大幅に過小評価している。すべてがインターネット上にあり、大口トレーダーやボットが、内部情報に基づく可能性のある取引を追随している明確な兆候が見える」と述べた。
さらに同氏は「外国の情報機関がこうした市場を監視していないと考えるのは、あまりに甘いだろう」と付け加えた。
ポリマーケットは、公開台帳を採用することで、より厳密な監視や検証が可能になると説明している。
予測市場に対する管轄権を求める米商品先物取引委員会(CFTC)の広報担当者は、今回の調査結果についてコメントしなかった。
CFTCは予測市場における不正行為を厳しく取り締まる方針を示しており、これまでに少なくとも3件を提訴している。
ACDCは、違法金融活動を専門とする研究者や調査員で構成され、反汚職改革の推進を目的としている。
同団体は、すべてのトレーダーに本人確認を義務付けるとともに、疑わしい取引による払戻金の支払いを調査終了まで保留すべきだと主張している。
しかし、インサイダー取引のリスクを実質的に軽減するには、非公開情報の利用が取引判断に直結し、大きな利益を生み得る市場そのものを禁止すべきだとしている。
報告書は「予測市場で賭けを行える人を制限することや、法執行機関の捜査に頼ることだけでは不十分だ」と結論付けた。
※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
Exclusive-More than 150 Polymarket wallets may have traded on military secrets, research finds
(Reporting by Douglas Gillison in Washington; Editing by Michelle Price and Mark Porter)
翻訳:大津賀新也(あたらしい経済)
画像:Reuters