Sui、耐量子署名2方式を導入へ。既存アドレスを維持したまま移行可能に

スイが耐量子暗号への対応計画、NIST標準2方式を採用へ

レイヤー1ブロックチェーン「スイ(Sui)」を支援するスイ財団(Sui Foundation)が、量子コンピューター時代を見据えた耐量子暗号(ポスト量子暗号)への対応計画を8月6日に発表した。

今回の計画では、米国立標準技術研究所(NIST)が標準化した2種類の耐量子署名方式を導入する。通常のアカウントには格子暗号を利用した「ML-DSA-65」を、高価値資産を保管するスマートコントラクト型のボールト(Vault)にはハッシュベースの「SLH-DSA-SHA2-128s」を採用するとのこと。

ミステン・ラボ(Mysten Labs)の共同創業者であり、チーフ・クリプトグラファー(暗号技術責任者)を務めるコスタス・チャルキアス(Kostas Chalkias)氏は、自身のXアカウントで、今回採用した2種類の耐量子署名方式について、それぞれ異なる用途を想定していると説明している。

同氏によると、通常のアカウント向けのML-DSA-65は、署名性能に加え、今後のハードウェアウォレットやHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)での将来的な対応の広がりも考慮した方式として位置付けられている。一方、高価値資産を保管するボールト向けのSLH-DSA-SHA2-128sは、ハッシュ関数を基盤とする、より保守的な方式として採用するとのこと。

またスイ財団は、ML-DSA-65とSLH-DSA-SHA2-128sが異なる暗号学的前提に基づくことから、一方の方式に予期しない脆弱性が見つかった場合でも、もう一方が同じ影響を受けにくい構成になると説明している。

スイ財団によると、量子耐性を備えたボールト機能は今年中のメインネット導入を予定している。また、ML-DSA-65を利用するネイティブアカウントは今年末までにテストネットへ導入し、メインネットでの提供は2027年第1四半期を目標としているとのこと。なお、独立監査やテストネットでの検証状況によってスケジュールは変更される可能性があるとしている。

既存アドレスを維持したまま耐量子暗号へ移行

現在、多くのブロックチェーンでは、資産の所有者本人であることを証明するために楕円曲線暗号を利用した署名方式が採用されている。一方、将来的に十分な性能を持つ量子コンピューターが実現した場合、この暗号方式が破られ、公開鍵から秘密鍵を復元される可能性が指摘されている。

さらに、多くのブロックチェーンでは、一度トランザクションを実行すると公開鍵が公開され、その後もネットワーク上に残り続ける。このためスイ財団は、過去に公開された公開鍵から秘密鍵を復元され、不正な署名を生成されるリスクがあると説明している。

こうした課題に対応するため、今回の計画では、新たな耐量子署名方式を導入するだけでなく、既存利用者が資産やアドレスを維持したまま移行できる仕組みも提供する。耐量子アカウントは既存アカウントを置き換えるものではなく、利用者が任意で選択できる追加機能として提供される予定だ。現在のアカウントやスマートコントラクト、アプリケーションは、耐量子機能を利用しない限り変更せず引き続き利用できるとしている。

その移行を実現する仕組みとして、利用者は現在使用しているリカバリーフレーズから、新たな導出方法を用いて耐量子鍵を生成できるとのこと。

また、スイでは今年3月に、既存のウォレットアドレスを維持したまま認証に使用する鍵を変更できる「アドレスエイリアス(Address Alias)」機能がメインネットへ導入された。同機能により、資産を別アドレスへ移転することなく、認証鍵を耐量子鍵へ更新できるとのこと。

さらに同財団は、スイが暗号方式を柔軟に追加・変更できる「暗号アジリティ(Cryptographic Agility)」を前提として設計されているため、コンセンサスや既存のネットワーク状態を変更することなく耐量子署名方式を追加できると説明している。

今回の発表に関連する研究として、ミステン・ラボの研究者らが参加した論文「Post-Quantum Readiness in EdDSA Chains(EdDSAチェーンにおける量子コンピューターへの対応)」がある。

同論文は、2026年の国際会議「FC 2026(Financial Cryptography and Data Security)」のプロシーディングスに掲載されている。 同論文では、スイやソラナ(Solana)、ニア(Near)などが採用する署名方式「EdDSA」は、秘密鍵をシードから決定論的に生成する構造を持つため、既存アドレスを維持し、資産移動を伴わずにポスト量子対応へ移行しやすい構造的な利点があると整理されている。

ブロックチェーンの量子対応は、署名アルゴリズムを置き換えるだけではなく、アカウント構造や鍵管理、既存資産の移行方法まで含めた設計課題だと同論文は整理している。

参考:スイドキュメント論文「EdDSAチェーンにおける量子コンピュータへの対応」
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者 ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。