米財務省、暗号資産ミキサーの正当な金融プライバシー用途を認識=報告書

ミキサーのプライバシー用途を認識

米財務省が、デジタル資産を巡る不正資金対策に関する議会向け報告書を3月に公表し、暗号資産(仮想通貨)のミキシングサービスについて「合法的な金融プライバシーの目的で利用される場合がある」との認識を示した。

同報告書は、2025年に成立したステーブルコイン関連法「ジーニアス法(GENIUS Act)」に基づき作成されたもの。デジタル資産に関わるマネーロンダリング対策や新技術の活用について分析・提言がまとめられている。

同報告書ではミキシングサービスについて、違法資金洗浄に利用されるリスクを指摘する一方で、合法的な用途もあると説明されている。なおミキシングサービスとは、暗号資産のトランザクション混合により、その追跡を困難にする技術だ。

財務省は、デジタル資産の合法的な利用者が公開ブロックチェーン上で取引を行う際、金融プライバシーを確保する目的でミキサーを利用する場合があると指摘した。例えば、個人の資産状況、企業間の支払い、慈善寄付などの情報が公開ブロックチェーン上で特定されることを避けるために利用される可能性があるとした。

また同報告書では、ミキシングサービスをカストディアル型とノンカストディアル型に区別している。カストディアル型ミキサーについては、既に金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)への資金サービス事業者(MSB)登録が義務付けられていると説明。コンプライアンスを遵守する場合、顧客の身元情報や取引に関するオフチェーンデータ、利用行動パターンなど、規制当局や捜査機関にとって有用な独自情報を提供できる可能性があると指摘された。

一方で同報告書では、ノンカストディアル型ミキサーに対する新たな規制の導入を推奨するには至っていない。また、ミキサー関連取引の記録保持を求めるFinCENの2023年提案規則についても最終化や支持には踏み込まず、2025年7月の大統領作業部会(PWG)報告書を参照。同報告書は、違法資金対策とプライバシー保護のバランスを踏まえ、財務省が「次のステップを検討する」よう提言している。

こうした見解は、2022年に暗号資産ミキサー「トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)」を制裁対象に指定した同省の過去の対応と比べ、対応の変化を示す内容とも読める。

一方で、報告書はミキサーが犯罪資金の洗浄に広く利用されている実態も強調している。

財務省によると、北朝鮮のサイバー犯罪グループは2024年1月から2025年9月までの期間に少なくとも28億ドル(約4,405億円)相当のデジタル資産を盗取しており、こうした資金の洗浄過程でミキシングなど複数の匿名化手法が利用されているという。

さらに財務省の分析では、2020年5月以降、ミキシングサービスからブリッジに流入した資金は約16億ドル(約2,516億円)に達している。そのうち9億ドル(約1,415億円)以上が、北朝鮮関連の資金洗浄と関連して調査対象となった特定のブリッジに集中していたとされる。

また犯罪者は、ビットコインなどの資産をミキサーで処理した後にステーブルコインへ交換することで、元の取引との追跡可能な関係を断ち切る手法を一般的に用いているとも指摘されている。

今回の報告書では、議会に対する政策提言も示された。その一つが、金融機関に対し、疑わしいデジタル資産を一定期間一時的に凍結できる制度、いわゆる「ホールド法(hold law)」の創設だ。

財務省は、この制度が特に決済型ステーブルコインを利用した不正資金対策に有効となる可能性があると説明している。

また分散型金融(DeFi)については、どの主体がマネーロンダリング対策やテロ資金対策(AML/CFT)の義務を負うべきかを議会が明確にする必要があるとも財務省は指摘した。さらに、米国愛国者法(Patriot Act)311条に新たな「第6特別措置」を追加し、特定のデジタル資産送金に対して条件付けや禁止措置を可能にすることも報告書では提案されている。

さらに報告書では、不正資金対策を強化する手段として、新たなテクノロジーの活用も重要だと強調されている。

財務省は、金融機関が人工知能(AI)、デジタルID、ブロックチェーン分析、API連携といった技術を活用することで、マネーロンダリングやその他の金融犯罪の検知能力を向上させられると説明した。例えばAIについては、不審な取引の監視や疑わしい活動の調査、さらには疑わしい取引報告書(SAR)の作成支援など、コンプライアンス業務の効率化に活用され始めているという。

今回の報告書は、米政府の暗号資産プライバシー政策の転換期とも重なるタイミングで公表された。

2024年には米控訴裁判所が、トルネード・キャッシュへの制裁を巡り米外国資産管理局(OFAC)の権限逸脱を指摘する判決を下した。これを受け財務省は同年3月に制裁を解除している。

参考:報告書 
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者