Nyx、イーサリアムにおけるDEX取引の「公開・非公開ルート」格差を実証

イーサリアムの非公開取引ルートの手数料差を可視化

イーサリアム(Ethereum)に特化した研究機関「一般社団法人ニックス・ファウンデーション(Nyx Foundation:以下、Nyx)」が、イーサリアムの分散型取引所(DEX)における取引執行の実態を分析した研究論文を2月12日に発表した。

同論文は、これまでブラックボックスとされてきたDEXの取引執行プロセスについて、実際の取引データを用いて可視化した点に特徴がある。

パブリックブロックチェーンは、原則として中央管理者を持たず、取引履歴を誰でも検証できる高い透明性を特徴としている。イーサリアム環境ではトランザクションがネットワークに伝播されるとブロックに記録される前に一時保管場である「メモリプール(mempool)」に送信されるのが一般的なルートだ。一方で、そのような公開メモリプールを経由せず、「サーチャー(Searcher)」や「ブロックビルダー(Block builder)」と呼ばれる特定のネットワーク事業者のみが利用できる非公開の執行ルートが存在するという。こうした構造は、表面的な透明性とは裏腹に、市場参加者間の情報格差や競争環境に影響を与えている可能性があると指摘されてきた。

今回の研究を行ったNyxは、こうした問題意識のもと、イーサリアム上で最大規模のDEXの一つである「ユニスワップ(Uniswap)」のv3環境における取引データを分析対象とした。特に注目したのが、「ジャスト・イン・タイム(Just In Time:JIT)」と呼ばれる取引手法だ。

JITとは、高度なMEV(Maximal Extractable Value)戦略の一つとして用いられる取引手法だ。主にボット(bot)を用いて、ユーザーの取引注文の直前に流動性を追加し、取引実行後すぐに引き出すことで、極めて短時間に利ざやを得る行為を指す。この手法は、ユニスワップv3(Uniswap v3)の仕様である「集中流動性(CLMM)」と組み合わさることで効果を発揮する。CLMMは、流動性提供者が資金を特定の価格帯に限定して配置できる仕組みであり、JITではこの特性を利用して、取引手数料や価格変動から効率的に収益を得ることが可能となる。このため、JITは高度なインフラやアルゴリズムを持つプロの取引事業者を中心に利用が拡大してきた。

同研究では、2024年1月から2025年9月までの約21ヶ月間に発生した約44万2,000件のJIT取引を分析したとのこと。その結果、JIT取引の約90.07%は一般的な公開メモリプールを経由して執行されていた一方、約9.93%はメモリプールを経由せず、ブロックビルダーに直接送信されるプライベートルートで実行されていたことが明らかになった。

公開ルートの取引では、多数のサーチャーとブロックビルダーが関与しており、取引機会を巡る競争が比較的広く分散していた。一方で、プライベートルートの取引は、ごく少数のサーチャーとブロックビルダーの組み合わせに強く集中しており、特定のネットワーク事業者間で閉じた取引関係が形成されている実態が確認されている。

手数料構造の分析では、それぞれの執行ルートの違いがより明確に表れた。公開ルートでは、JIT取引によって得られた利益が増えるほど、ブロックビルダーに支払われる総手数料も増加する傾向が強く見られた。利益と手数料の関係を回帰分析した結果、利益が1ドル(約153円)増加した場合、約0.75ドル(約115円)がブロックビルダーへの支払いとして還元されていた。

これに対し、プライベートルートでは、特に、価格インパクト由来の利益(取引によって価格が動いた結果として生じる収益)に対する手数料の増加が抑えられていた。分析では、同じく利益が1ドル増加した場合でも、ビルダーへの支払いは約0.32ドル(約49円)にとどまり、公開ルートと比べて競争的な入札圧力が弱い可能性が示唆されている。

Nyxは、これらの結果について、プライベートルートでは取引情報が限定的に共有されることで、ビルダー間の競争が十分に機能せず、利益が必ずしも手数料として反映されない構造が存在する可能性があると整理している。ただし、同研究は市場の望ましさや制度設計について評価を下すものではなく、あくまで観測された事実を整理したものとのことだ。

同論文は、オンチェーン市場においてこれまで概念的に語られることの多かった取引執行ルートの非対称性について、実際の取引データを用いて定量的に示した点に意義がある。公開メモリプールとプライベートルートという異なる執行経路が、ネットワーク事業者の収益配分にどのような差をもたらしているのかを体系的に整理した本研究は、DEX及びオンチェーン市場の構造を理解する上での基礎的な実証研究と位置付けられる。

なお、分析対象は実際にブロックに採用された取引に限られており、未成立取引やオフチェーンでの私的な取り決めは含まれていない。また、データ取得に用いたメモリプール観測には限界があることも明示されている。

同論文は、暗号資産分野の国際学会「フィナンシャル・クリプトグラフィー・アンド・データ・セキュリティ2026(Financial Cryptography and Data Security 2026)」のDeFiワークショップに採択されている。

参考:プレスリリース論文『Mapping Public and Private JIT Liquidity Dynamics in Ethereum’s Builder Ecosystem』
画像:PIXTA

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