米SECがバイナンスUSへの証拠開示命令求める、弁護団反発で法廷闘争激化も

開示命令を裁判所へ要求

米証券取引委員会(SEC)が、大手暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)に対する訴訟にて、証拠開示命令を下すよう裁判所に要求している。9月14日に提出された裁判資料にて明らかとなった。

SECは裁判資料にて、バイナンスホールディングスとCEOのチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao:CZ)氏の支配下に顧客資産が置かれないことを証明するための情報を、バイナンスUSの運営会社BAMトレーディングが「非常に限定的」なものしか提供しないと指摘。

SECは裁判所に対し、「BAMトレーディングに該当する文書の提供を命じること」や、「BAMトレーディングによる保護命令の申し立てを却下すること」、「係争中の証拠開示申し立てに関する裁判所命令から14日間以内に追加証拠開示をBAMトレーディングに完了させる命令」などを求めている。

なおBAMトレーディングによる保護命令とは、証拠開示の範囲を限定することを求めるもので、9月11日付けで要請されている。

顧客資産管理に疑問も

SECはまた、バイナンスの国際部門(バイナンスホールディングス)と関連するカストディサービス「セフ(Ceffu)」が、 BAMトレーディング顧客の暗号資産に関連するウォレットと秘密鍵のシャードの構築、およびウォレット保管ソフトウェアと秘密鍵のシャードをホストするAWS環境の管理における役割を通じて、顧客資産を管理しているように見えると指摘。

これは、BAMトレーディングがすべての顧客資産を米国内に保持し、同社管理下に置いておくとする同意命令に違反しているのではないかとSECは指摘している。

なお「セフ」は、2021年12月に運用開始された「バイナンスカストディ(Binance Custody)」が2023年2月にリブランディングした際の新名称だとされている。

一方で「セフ」は「完全に独立したサードパーティーのテクノロジー・サービス・プロバイダー」であるため、バイナンスの一部ではないと「セフ」は主張しているが、両社の関係性にはやや不透明な部分が見られるとされている。

法廷闘争は激化へ

これに対しBAMトレーディングの弁護団は9月18日の提出書類にて、SECの文書要求が 「広範」で、取引所にとって 「不都合」すぎると主張した。

また「BAMは、(SECの)要求があいまいで、広範で、特定性に欠け、または不当であるため、異議を申し立てる」とBAMの弁護士は述べている。

さらにBAMの弁護士は、SECからの要求が「不当に負担の大きい」ものであり、BAMに「多額の費用」を負担させるものだと主張。また、いくつかの文書は取引所が所有していなかったり、SECの調査に関連する内容の「範囲外」であると主張した。

加速する大量人材流出

SECはまた9月18日提出の裁判資料にて、BAMトレーディングのCEOであるブライアン・シュローダー(Brian Shroder)氏を含む、数名の幹部がバイナンスUSを去ったことについても言及。ウォールストリート・ジャーナルによれば、バイナンスUSの法務責任者のクリシュナ・ジュヴァディ(Krishna Juvvadi)氏と最高リスク責任者のシドニー・マジャリヤ(Sidney Majalya)氏が先週退社したという。

SECは提出書類にて、「BAMのCEOをはじめ、資産の保管、管理、利用可能性に関する重要な情報を持つ可能性のある従業員の大量流出が加速していることは、これらの問題に対する迅速な証拠開示の緊急の必要性をさらに強調している」とし、「当法廷は、BAMの中途半端な主張を却下すべきである。その代わりに強制執行の申し立てを全面的に認めるべきだ」と主張している。

なおSECとBAMトレーディングは、10月12日の公聴会開催及び、10月10日までに共同状況報告書を提出することで合意している。

訴訟の影響でシェア縮小も

バイナンスとバイナンスUSは今年に入り、SECによる取り締まりの影響で、市場シェアが縮小している。

データ会社カイコ(Kaiko)によれば、6月に起こされた訴訟によりバイナンスの世界シェアは年初の60%から52%に押し下げられたとのことであった。

バイナンス提訴について

バイナンスとCZ氏は6月5日、SECより提訴された。

SECは、バイナンスが取引量を人為的に膨らませ、顧客の資金を流用した他、米国の顧客が国外の交換所で取引できるようにし、市場規制について投資家に誤解を与えたなどと指摘。ワシントンDCの連邦裁判所に提出された訴状には、バイナンスとCZ氏、同社の米交換所運営会社に対する13の容疑が記載されていた。

なお関係筋によるとバイナンスは、マネーロンダリング(資金洗浄)と制裁違反の疑いで司法省の調査も受けているという。

関連ニュース

参考:提出書類1(9月14日提出)提出書類2(9月18日提出)提出書類3(9月18日提出)WSJ
images:Reuters

関連するキーワード

この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者 同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。 同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。

合わせて読みたい記事

【5/17話題】スラッシュがSlash Vプリカ SHOP開始、SECのSAB121覆す決議案が可決など

スラッシュが「Slash Vプリカ SHOP」開始、暗号資産でVプリカ購入可能に、米上院、SECの暗号資産会計ルール「SAB121」を覆す決議案を可決、インド証券取引委員会、暗号資産取引の監督に前向き、準備銀行とは対照的に、仏証券監督当局、投資家にBybitの無登録営業を警告、KuCoin、ナイジェリアの規制準拠に向け一部サービスを停止、米CME、ビットコイン現物取引の提供検討か=報道、リップル、「XRP Ledger」をコスモスのインターチェーンに接続、マスターカードがカーボンクレジットのトークン化における概念実証完了、スタンダードチャータード銀行らと、DTCC、大手銀行らとファンドのトークン化推進する「Smart NAV」の実証実験完了。チェーンリンク活用で