イーサリアム研究者、ポスト量子・ポストAI移行を2028年末までに完了目指す

量子耐性確保の公式目標より1年早い移行完了に言及

イーサリアム財団(Ethereum Foundation)の研究者ジャスティン・ドレイク(Justin Drake)氏が、イーサリアム(Ethereum)のポスト量子・ポストAIへの移行を2028年12月までに完了させたいとの意向を11月3日に示した。これは、同財団のプロトコル部門が掲げる2029年12月までの量子耐性確保より1年早い時期となる。

ドレイク氏は、インド・ムンバイで6日まで開催されるイーサリアムの開発者会議「デブコン8(Devcon 8)」のオープニングセレモニーで、今回の目標に言及した。具体的には、ネットワークアップグレード「グラムステルダム(Glamsterdam)」の後、24カ月以内に3回のフォークを実施する必要があると述べた。フォークとは、ブロックチェーンのルールや機能を変更するためのネットワーク更新を指す。

これに先立ち、イーサリアム財団のプロトコル部門は今年9月7日、イーサリアムのレイヤー1(L1)で2029年12月までに完全な量子耐性を確保する目標を公式ブログで公表していた。ただし、今回の発言はドレイク氏が移行完了への希望を示したものであり、財団の公式目標が変更されたわけではない。また、両者の目標が対象とする技術的な範囲が完全に一致するかは明らかになっていない。

ポスト量子への移行は、将来的に量子コンピューターが既存の暗号技術を破る能力を持つ可能性に備えるものだ。イーサリアムでは、利用者が秘密鍵を使って取引に電子署名する。ネットワークに参加するノードは、公開鍵を使って署名の正当性を検証する。しかし、十分な性能を持つ量子コンピューターが登場した場合、第三者が公開鍵から秘密鍵を特定し、不正な取引を実行するリスクがある。

こうした脅威に備え、同財団のプロトコル部門は、量子コンピューターが既存の暗号技術を破れるようになる時期「Qデー(Q-day)」が2030年にも到来するという厳しい前提を置いている。ただし、2030年という時期は対策を早期に進めるための想定であり、実際の到来時期を予測したものではない。

一方、ドレイク氏は今回の発言で、ポスト量子とともに「ポストAI」にも言及した。同氏は10月7日の自身のXアカウントへの投稿で、人工知能(AI)による数学研究の進展が、既存の電子署名方式の安全性を脅かす可能性を指摘していた。また、同氏はハッシュ関数を基盤とする暗号技術への移行を提唱していた。ただし、今回の発言でポストAIが具体的にどのような技術的対応を指すのかは明らかになっていない。

イーサリアム財団のプロトコル部門が量子耐性の確保を目指す対象は、取引処理を担う実行レイヤー、ネットワークの合意形成を担うコンセンサスレイヤー、データの利用可能性を支えるデータレイヤーの3つだ。そのため、同部門は取引の電子署名だけでなく、ネットワークの複数の仕組みを対象に対策を進める方針を示している。

具体的には、同部門が今年9月に公表した開発計画では、7月版のロードマップに基づき、グラムステルダム後の5回のハードフォークを通じて、完全な量子耐性を確保する構想が示されていた。一方、アップグレードの順序を変更し、量子耐性の確保を1回早める案も提示されていた。ハードフォークは、ネットワークの参加者が新しいルールに対応する必要があるアップグレードの一種だ。また、量子コンピューターによる攻撃が可能になった場合でも、一定の制約のもとでネットワークの稼働を維持するための暫定的な対策も計画に含まれる。

なお、ドレイク氏が今回言及した3回のフォークと、従来計画の5回のハードフォークがどのように対応するかは明らかになっていない。イーサリアム財団のプロトコル部門は、2027年1月に外部専門家の助言を受け、量子コンピューター技術の進展を再評価する予定だ。同部門は、少なくともその時点までは2029年12月という目標を維持する方針を示している。

参考:イーサリアム財団
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者 ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。