米大学研究チーム、ビットコインのライトニングネットワーク向け耐量子技術「PQLN」開発

既存ノードとの互換性も確認

米イーストテキサスA&M大学(East Texas A&M University)が、同大学などの研究チームによるビットコイン(BTC)のライトニングネットワーク(Lightning Network)向け耐量子暗号技術「PQLN」の開発成果を10月13日に発表した。研究チームはPQLNを既存のライトニングソフトウェアに実装し、動作や互換性を検証した。ただし、現時点では研究段階であり、ライトニングネットワークへの正式な導入は決まっていない。

研究成果は9月12日に公開された論文「PQLN: Post-Quantum Security for the Bitcoin Lightning Network’s Off-Chain Surfaces」にまとめられており、ソースコードも公開されている。研究チームが把握する限り、ライトニングネットワーク向けの耐量子暗号について、設計から実装、評価まで行った初めての研究成果とのことだ。

ライトニングネットワークは、ビットコインのブロックチェーン外でBTCを送金し、迅速な決済を可能にする仕組みだ。利用者同士がBTCを預け入れる決済チャネルを開設し、送金のたびにブロックチェーンへ取引を記録せずに処理する。また、複数の決済チャネルを経由することで、直接接続していない相手にも送金できる。

一方、ライトニングネットワークでは、ノード同士の通信や決済に関する情報の認証などに、楕円曲線暗号と呼ばれる公開鍵暗号技術が使われている。ノードとは、ネットワークに参加して通信や決済の中継などを行うコンピューターのことだ。将来、高性能な量子コンピューターが登場すると、この暗号技術が破られ、ノードへのなりすましや決済情報の偽造などが可能になるおそれがある。また、現在の暗号化された通信を記録し、将来の量子コンピューターで解読する攻撃も想定されている。

こうした脅威に対し、研究チームは、ビットコイン本体が耐量子暗号に対応しても、ライトニングネットワーク独自の通信や決済関連の仕組みには別途対策が必要だと指摘する。PQLNは、ビットコイン本体の仕様を変更せず、これらの仕組みに耐量子暗号を導入するために開発された。ただし、決済チャネル内の資金を管理するビットコインの取引は保護対象外であり、その保護にはビットコイン本体の耐量子対応が必要となる。

PQLNでは、米国立標準技術研究所(NIST)が2024年8月に標準化した耐量子暗号技術「ML-DSA」と「ML-KEM」を採用したとのこと。研究チームは、従来の暗号技術を完全に置き換えるのではなく、これらを組み合わせる方式を採用している。

具体的には、ノード同士の通信や決済請求書の認証、送金経路に関する情報の保護などに耐量子暗号を導入した。

また、PQLNに対応していない既存のノードとも通信や決済を継続できる設計となっている。ただし、未対応ノードとの通信や、そのノードを経由する決済まで耐量子暗号で保護されるわけではない。PQLNでは、従来方式の利用を許可するか、耐量子暗号で保護されない接続や決済を拒否するかを設定できる。

研究チームは、ライトニングネットワークの主要なソフトウェア実装の一つである「ラストライトニング(rust-lightning)」にPQLNを実装し、実験環境で稼働させたライトニングノードを使って性能や互換性を評価した。その結果、追加される暗号処理のうち、最も時間がかかった署名生成でも平均約0.33ミリ秒だった。また、PQLNに対応したノードと従来のノードを組み合わせた12種類のシナリオで互換性を検証し、すべてのテストに成功した。

一方、主な課題として通信量の増加が挙げられた。ノードがネットワーク情報を取得する際のデータ量は、耐量子暗号を導入することで従来の約10倍となった。ただし、より小さな電子署名を使用した場合は約4倍に抑えられた。研究チームは、暗号処理にかかる時間よりも、通信量の増加が大きな負担になると説明している。

なお、今回の検証はラストライトニングを対象としたもので、他のライトニングソフトウェアとの互換性は確認されていない。また、PQLNの拡張仕様は実験段階にあり、正式な導入に向けては追加の検証や技術仕様の整備が必要となる。

参考:論文
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

渡邉洋輔

「あたらしい経済」編集部 記者 ブロックチェーンおよびデジタル資産分野を専門とし情報発信を行っている。オンチェーンデータや流動性構造など、市場設計の観点からのリサーチにも取り組んでいる。