博報堂・LG電子・ワールドのTFH、「World ID」活用の実証実験。デジタル広告費の不正搾取対策で

博報堂・LG電子・ワールドのTFHがWorld ID活用の実証実験

博報堂の新規事業開発を担うミライデザイン事業ユニットとLG電子(LG Electronics)、ワールド(World)の主要企業であるツール・フォー・ヒューマニティ(Tools for Humanity:TFH)が、人間のみに広告を配信するアドネットワーク「Human-Verified Ad Network」の実証実験を実施したと10月14日に発表した。

この実証実験で博報堂は、自社の広告事業の知見を活かし、社会課題であるAIなどを悪用した広告費の不正搾取(アドフラウド)の解決策となるサービス全体の構想を主導したとのこと。

具体的には、博報堂が開発した「World App」内のミニアプリ「boba」をユーザーとの接点とし、ワールドの人間証明技術「World ID」と、LG電子が開発した広告の表示履歴をブロックチェーン上に記録できるWeb3基盤広告ネットワーク「Web3 Ad Network」を活用し、真に人間に表示された広告にのみ費用が発生する、透明性の高い経済エコシステムの構築を目指したという。

なお実証実験は、国内のユーザーを対象に、今年の7月7日から8月31日に行われた。広告主として10の企業・ブランドが参加し、3,500人超のユーザーが参加。参加広告主の業界は、食品、化粧品、家電、旅行、教育など、多岐にわたったという。

そしてHuman-Verified Ad Networkを用いて「アプリ内で認証された人間にのみ(インセンティブを付与しない)」広告を配信した結果、無条件下での「主要なWeb2の広告メニュー」への広告配信と比較して、CTR(クリック率)が約50%、直帰率(最初に訪れたページだけを閲覧し、他のページに遷移することなくサイトから離脱したセッションの割合)は約15ポイント改善したとのこと。

この結果は、ボットや無効なトラフィックを排除し、真に人間であるユーザーにのみ広告を届けるという本ネットワークの価値が、アドフラウドによる無駄な広告費を削減し、広告主のROI(投資収益率)を最大化する可能性を示唆しているという。

また、定性的な評価としては、実証実験の参加広告主およびユーザーから、透明性の高さ、エンゲージメントの向上、そして全体的な広告体験に対する肯定的なフィードバックが寄せられたとのことだ。

なおHuman-Verified Ad Networkには、広告のクリック等の特定のアクションに対し、インセンティブ(ポイント)を獲得できる仕組み「Watch to Earn」機能を実装したという。このインセンティブも人間にのみ付与され、その履歴はブロックチェーン上に記録されるため、インセンティブ付与に伴う費用が広告主に不正に請求されないとのこと。

このインセンティブ提供により、ユーザーは受動的な広告視聴から能動的なエンゲージメントへと行動を変え、広告のCTRの向上に貢献するという。広告クリックに対して「(boba内で人間にのみ)インセンティブを付与する」場合と「(boba内で人間にのみ)インセンティブを付与しない」場合を比較すると、CTRが約7倍に向上したとのこと。このことは、デジタル広告が抱えるユーザーの無関心という課題に対する具体的な解決策になるとのことだ。

デジタル広告が直面する主要課題

博報堂によるとデジタル広告は今、アドフラウド、プライバシー規制、ユーザー離れといった主要課題があるという。悪意あるボットやクローラーによる無効トラフィックが広告費を侵食し、国内の不正率は平均5.12%、ケースによっては51.8%に達するともされる。生成AIの発展で手口は一層巧妙化しており、総務省も2025年春に注意喚起のガイダンス素案を公表するなど、信頼性確保は業界の急務とのこと。

また同時に、GDPRやCCPAといった国際的なプライバシー規制、国内の改正個人情報保護法の影響でサードパーティCookieは制限され、ターゲティング精度は最大40%低下する予測とのこと。興味とずれた広告表示やデータ取得への不安からユーザーのエンゲージメントも弱まり、クリック等の反応は鈍化。結果として、広告主は測定と最適化が難しくなり、支出に見合う効果を得にくい状況が強まっているとのことだ。

ワールドとは

ワールドは、AIチャットボットサービス「ChatGPT」を提供する米オープンエーアイ(OpenAI)のCEOサム・アルトマン(Sam Altman)氏らが立ち上げたプロジェクト。主要開発元であるTFHでは、AI時代における「人間のためのテクノロジーを構築する」ことを目指している。

また「World ID」は、氏名や電子メールなどの個人情報を明かすことなく自分が実在する一意の人間であることを証明できるデジタルID。取得するにはTFHが世界各所に設置する「オーブ(Orb)」と呼ばれるボール状のデバイスで虹彩をスキャンする必要がある。

なお博報堂とTFHは2024年10月に提携を発表していた。 

参考:博報堂
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

大津賀新也

「あたらしい経済」編集部 副編集長 ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。