暗号資産保有者狙う「レンチ攻撃」が増加
ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)が、暗号資産(仮想通貨)保有者を狙った暴力事件「レンチ攻撃(Wrench Attack)」に関する分析レポートを8月6日に公開した。同社の推計によると、2026年の年央までに、こうした攻撃によって実際に奪われた暗号資産は3,000万ドル(約47.5億円)を超えているとのことだ。
レンチ攻撃とは、暗号資産保有者やその家族に対し、暴力や脅迫によってウォレットから資産を送金させる攻撃を指す。名称は「レンチ(スパナ)で脅して秘密鍵を聞き出す方が、暗号を解読するより簡単」というジョークに由来するとされる。住居侵入や誘拐、人質事件などが含まれ、暗号資産の秘密鍵やウォレットへのアクセス権を強制的に取得することを目的としている。
暗号資産では、利用者自身が秘密鍵を管理し、銀行や取引所などの第三者を介さず資産を保有する「セルフカストディ」が利用されている。一方、この仕組みでは保有者本人が送金を承認すれば資産を移転できるため、犯罪者がシステムを攻撃するのではなく、保有者本人を脅迫して送金を強要する「レンチ攻撃」が発生している。
2025年の被害額は5,800万ドル(約91.9億円)で過去最高を記録した。チェイナリシスは、2026年も現在のペースが続けば、過去最悪を更新する可能性があるとみている。なお、今回の3,000万ドルは実際に資産が奪われた事例のみを集計した数値であり、身代金要求や未遂事件、凍結・回収された資産などを含めた関連金額は、2026年の年央までに約1億700万ドル(約169.5億円)に達するとのことだ。
フランスで急増、情報漏えいが一因か
地域別ではフランスでの増加が目立つ。2025年は19件だった公表済み事件が、2026年は年央までに30件確認された。さらにフランス当局は、2026年上半期に暗号資産関連の暴力事件を70件超把握しているとのこと。公表されていない事件も存在する可能性があるとのことだ。
チェイナリシスは、フランスでの増加の背景として、2024年にパリ近郊の税務職員が、暗号資産保有者の氏名や住所、保有資産、電話番号、税務記録などを盗み出し、販売した疑いがある事案を挙げている。報道によると、税務職員が暗号資産保有者の氏名や住所、保有資産額などを含む情報を盗み、販売した疑いがあるという。
また今年1月には、暗号資産の損益計算や税務申告を支援するサービス「ウォルティオ(Waltio)」が約5万人規模のユーザーデータ流出を公表した。ウォルティオによると、流出対象にはメールアドレスや2024年の損益、年末時点の暗号資産残高などが含まれた一方、氏名や住所、電話番号、ウォレットアドレス、秘密鍵などは含まれていないとのことだ。チェイナリシスは、こうした漏えい情報が犯罪者による標的選定に利用される可能性を指摘している。
なお、セキュリティ企業サーティック(CertiK)が公開した2026年上半期の調査でも同様の傾向が確認されている。同社は上半期に52件のレンチ攻撃を確認し、このうち33件がフランスで発生したと報告した。また、住居侵入は前年同期の1件から20件へ増加したとのことだ。サーティックは、流出した個人情報や公開情報などを利用して標的を選ぶ「データ駆動型」の攻撃が進んでいると分析している。
なお、チェイナリシスは2026年6月下旬までの世界の事件数を46件、サーティックは同年上半期を52件と集計している。両社では対象事件や分類・検証基準が異なるため、集計件数は一致していない。
攻撃の手口にも変化が見られる。2026年は住居侵入が全体の37%を占め、前年の14%から大幅に増加した。一方、誘拐は全体の52%を占めている。チェイナリシスは、住居侵入について、被害者を自宅など管理しやすい場所で拘束し、暗号資産の送金を強制しやすい点が背景にあると説明している。
さらに同社は、暗号資産保有者本人だけでなく、家族や知人を狙う事件も増加していると報告している。2021年にはほぼ確認されなかったものの、2026年初頭には全体の約25〜30%を占めるようになり、フランスでは40%以上の事件で家族や関係者が標的になったとのことだ。
一方で、攻撃の成功率は低下している。2026年6月下旬までに確認された46件の暴力事件のうち、実際に送金へ至ったのは12件で、成功率は26%だった。2025年は49%、2024年は67%だったとのことだ。
日本でも個人情報管理や情報発信に注意
日本では近年、SNSなどで実行役を募る「闇バイト」による強盗事件が相次いでいる。警察庁なども、こうした犯罪への注意を呼び掛けている。
今回のチェイナリシスの分析では、情報漏えいやSNSなどの公開情報が、暗号資産保有者を狙う犯罪の標的選定に利用される可能性が指摘された。またサーティックも、流出した個人情報などを利用して標的を選ぶ手口が進んでいると分析している。
犯罪の実行役を外部から募集する点では、日本で相次ぐ「闇バイト」による強盗事件とも共通点がある。日本でも、暗号資産保有者を狙った同様の犯罪が発生する可能性には注意が必要だ。そのため、秘密鍵やウォレットの管理だけでなく、SNSで資産保有状況を安易に公開しないことや、氏名や住所などの個人情報と暗号資産の保有状況が結び付かないよう管理することも、重要なセキュリティ対策の一つになる。
参考:チェイナリシス ・サーティック ・警視庁
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