ECB発行CBDC、2029年稼働を視野
欧州連合理事会(Council of the EU)が、「デジタルユーロ(中央銀行デジタル通貨:CBDC)」導入に向けた法的枠組みと、ユーロ現金の法定通貨としての役割を強化するための規則案について、欧州議会との交渉方針で12月19日に合意した。これにより、ユーロ圏における公的マネーは、制度設計を具体化する段階へと進むことになる。
欧州連合理事会は、EU加盟国の閣僚で構成され、EUの立法や政策方針について欧州議会とともに決定権を持つ機関だ。
今回の合意は、デジタルユーロの潜在的な発行を可能にする2つの規則案と、現金の受容性および利用可能性を確保するための1つの規則案に関するものだ。EU理事会は、これらの施策がEUの戦略的自律性や経済安全保障、金融システムの強靭性を高めると位置づけている。
現金を巡っては、デジタルユーロとの関係も含めてルールを明確化し、公的マネーとしての2つの形態の一貫性を確保することが目的とされている。理事会は、オンライン購入などの遠隔取引や無人販売機といった一部の例外を除き、小売業者やサービス提供者が現金の受け取りを拒否することを事実上禁止する意向を示した。一方で、事業者がカードやデジタル決済を推奨すること自体は妨げられない。
また加盟国には、現金の受容状況やアクセス状況を継続的に監視し、共通指標および国内指標に基づいて必要に応じた是正措置を講じることが求められる。加えて、電子決済が広範かつ深刻に停止した場合に備え、現金供給の強靭性計画(レジリエンスプラン)を策定することも期待されている。
デジタルユーロは現金を補完する公的な決済手段として、ユーロ圏の市民や企業がオンライン・オフラインを問わず利用できることが想定されている。発行主体は欧州中央銀行(ECB)で、中央銀行マネーとして決済システムの中核的な役割を維持する狙いだ。
理事会が合意した設計では、デジタルユーロはインターネット接続がない環境でも利用可能なオフライン決済に対応し、利用者の取引における高い水準のプライバシー保護が確保される。また、民間事業者が提供するカード決済やスマートフォンアプリなど、既存の民間決済手段と競合するのではなく、共存する形で導入されることが想定されている。
一方で、デジタルユーロが過度に価値貯蔵手段として利用され、金融安定に影響を及ぼすことを防ぐため、個人が保有できる金額には上限が設けられる。この上限はECBが設定するものの、EU理事会が定める全体的な枠組みの範囲内で運用され、少なくとも2年ごとに見直されるとした。
また決済サービス事業者(PSP)は、口座の開設・閉鎖やデジタルユーロによる支払い・送金といった必須サービスについて、消費者から手数料を徴収してはならないとされる。ただし、付加価値サービスについては有料化が認められる。
デジタルユーロを実際に発行するかどうかの最終判断は、今後、欧州議会とEU理事会による法的枠組みの採択を経たうえで、ECBが行う。ECBはこれまでに、デジタルユーロが2029年までに稼働する可能性を示している。EU理事会は今回の合意をもって、欧州議会との本格的な交渉に入る見込みだ。
ECBは、ユーロ圏の通貨主権強化を目的にデジタルユーロの検討を進めてきたが、フランスやドイツの一部銀行からは反対の声も上がっている。反対派は、多くの欧州市民が日常決済にECBのデジタルウォレットを利用するようになれば、銀行預金の流出につながりかねないと懸念している。
参考:発表
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