ZKsyncが「Atlas」アップグレード公開、15,000TPS超で1秒のZKファイナリティ実現へ

ZKスタックが「Atlas」アップグレード公開

マターラボ(Matter Labs)提供のブロックチェーン開発用モジュール型のオープンソースフレームワーク「ZKスタック(ZK Stack)」の大型アップグレード「アトラス(Atlas)」の詳細が10月7日に発表された。

マターラボは、イーサリアム(Ethereum)のレイヤー2スケーリングソリューション「ZKsync(ジーケーシンク)」の主要開発元。アトラスによりZKスタックは、マターラボが目指す、暗号技術で保護された主権チェーンのネットワークというビジョンに向けて大きく前進するとのこと。

アトラスでは、高性能かつ低レイテンシのシーケンサー、複数のVM(仮想マシン)構成のサポート、そして独自のオープンソースRISC-V証明システム「エアーベンダー(Airbender)」の統合、という3つを導入する。これらの組み合わせにより、ゼロ知識証明(ZKP)を用いた1秒のファイナリティを実現するという。なお複数のVM構成のサポートには、完全なEVM(イーサリアムバーチャルマシン)等価性のある仮想マシンのサポートも含まれるとのことだ。

マターラボは、企業や機関が自社のインフラの一部として展開した自分たちが管理するシステムを通じて、日常的にデジタル資産経済へ参加する世界を想定しているとのこと。これらのシステムは特定のユースケースをサポートするために異なる構成が必要だが、それらは単一のネットワークの一部として統合する必要があり、正確性の暗号学的保証を備えて価値を交換できるようになる必要があるという。ZKsyncとZKスタックはこの未来のために設計されており、ZKsyncは公開チェーンとプライベートチェーンを1つの暗号学的に安全なネットワークに接続し、ZKにより破損不可能にし、イーサリアムを介してオンチェーン流動性に接続するとのことだ。

今回のアップグレードで導入される新しいトランザクションシーケンサーは、スループットの向上、レイテンシの削減、システムの簡素化の3つの側面を中心に一から設計されたという。特に影響力の大きい決定には、シーケンサーから不要な機能をすべて削除し、特に同期的な永続化を最小限に抑えることに重点を置いたことなどが含まれるとのことだ。

マターラボは、毎秒トランザクション(TPS)がこれらのシステムのプロファイリングには不完全な指標であることを認識しつつ、シーケンサーの能力を文脈化するためにいくつかのデモシナリオを開発したとのこと。高頻度価格更新のシナリオでは、システムは約2万3,000TPSを維持でき、平均トランザクション包含時間は250ミリ秒だったという。ステーブルコイン送金のシナリオでは、持続的なパフォーマンスとして約1万5,000TPSが見られ、平均トランザクション包含時間は500ミリ秒だったとのこと。ETH送金のテストでは、システムは約4万3,000TPSを処理し、平均トランザクション包含時間は450ミリ秒だったという。マターラボは、このシーケンサーをパフォーマンスのために設計し初期結果に興奮しているが、最適化にはほど遠く、システムが成熟するにつれてさらに多くの改善が行われると語っている。

また今回のアップグレードでは、エアーベンダーが本格的に実装されるという。エアーベンダーは、今年6月に同社が発表したオープンソースの命令セット規格「RISC-V」に基づいた独自のzkVMであり、1秒のブロック証明と数分でのイーサリアムファイナリティを提供するとのこと。汎用性があり、RISC-Vにコンパイルされる任意のプログラムを証明でき、クラス最高のハードウェア利用率を持つという。効率的でほぼリアルタイムのZK証明は画期的な技術であり、これなしでは単純にサポートできない機能を可能にするとマターラボは語っている。

エアーベンダーが提供する重要な特性として、1秒のZKファイナリティがあるという。ネットワークのエッジでは、ZKスタックチェーンからのブロックが約1秒で証明され、ZKsyncゲートウェイ(調整レイヤー)によって検証されるとのこと。取引相手はほぼ即座にトランザクション実行の暗号学的保証が得られ、証明は数分以内にイーサリアムに決済されて完全なL1ファイナリティが得られるという。

またアトラスアップグレードは、ZKスタックチェーンの動作方法に大きな改善をもたらすという。トランザクションの実行と状態の管理を担当するシステムレベルのコンポーネントを再設計したとのこと。このコンポーネントはRustプログラムとして実装され、x86とRISC-Vの両方の命令セットにコンパイルされるという。x86はシーケンサーの実行に使用され、RISC-Vはエアーベンダーに供給されてシステムの正確性を証明するZK証明の計算に使用されるとのことだ。

この設計には、同じコードをx86とRISC-Vにコンパイルすることで実行するものと証明するものが同じになることや、RISC-Vにコンパイルされる任意のVMを同じパイプラインで証明できることでチェーンビルダーに選択肢を提供できること、ERC20送金の証明コストが約0.0001ドルになることなどの魅力的な特性があるという。

なおマターラボは2025年のロードマップで、バイトコードレベルのEVM等価性と業界最高規模のパフォーマンスを約束していたとのこと。今回のアップグレードはこれらの面で大きく前進し、ZKスタックビルダーが利用できるツールキットをさらに拡張するという。アトラスアップグレードを最初に活用するチームはすでにテストネットを稼働させており、今後数週間でテストネットとメインネットの両方で他の多くのチェーンが続くと予想されるとのことだ。

マターラボの共同創業者兼最高経営責任者であるアレックス・グルチョウスキー(Alex Gluchowski)氏は、「ZKsyncは新しい金融インフラ時代の基盤を表しており、企業や機関が内部システムに期待するのと同じ主権性と柔軟性を持ってオンチェーンで運用できるが、暗号技術によって強制される破損不可能な保証を備えている」と語っている。 

参考:ZKsyncブログ
画像:PIXTA

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この記事の著者・インタビューイ

田村聖次

和歌山大学システム工学部所属 格闘技やオーケストラ、茶道など幅広い趣味を持つ。 SNSでは、チェコ人という名義で、ブロックチェーンエンジニアや、マーケターとしても活動している。「あたらしい経済」の外部記者として記事の執筆も。