「本当の革命はパブリックな仮想通貨」ビットバンクCEO廣末紀之が見据える仮想通貨の将来/廣末紀之インタビュー(2)

仮想通貨取引所ビットバンクの戦略

−ビットバンクでの通貨の採用基準はどのようなものがありますか?

自社でチェックポイントを設けています。あまり詳しくは言えませんが、一番大きいポイントはプロトコルですね。プロトコルの開示がきちんとあって、セキュリティ上の問題点がなくて自分たちがちゃんと扱えるかどうかが一番大事です。

その他にも、ディベロッパーによる改善が進むかどうかを見るために、コミュニティが活性化度合いやGithubのコミット数やReddit(アメリカの掲示板)の動向を見たりもします。

−海外の有力取引所とはどう差別化していますか?

日本円を扱い、政府のライセンスのもとできちっと事業を運営しているということ自体が差別化要因になっていると思います。今後ともそこは外さず続けていくつもりです。

ただ一方で、CZが率いるBinanceは逆に法定通貨は扱わず、仮想通貨のデパートみたいに多数の通貨を扱っています。現在ではBinanceは世界最大といってもいいほどの取引所になっていて、消費者からの人気も高いです。

私たちが規制準拠にこだわりすぎていると、そういった海外の取引所に人々が逃げてしまう可能性もあるので、それは難しい課題ですね。真面目にやってるが故に負ける、というのは本当に悔しいことです。

金融分野は守り抜くことが大事

−社長としてどういった経営スタンスを心がけていますか?

身の丈を知る、ということです。

金融のビジネスは「攻めすぎると、やられる可能性が高まる」と思ってます

ビジネスはスポーツと似ていて、プロの戦いは「ピンポイントを狙って攻めて勝つ」のですがアマチュアの戦いは「失敗しないで相対的に勝つ」のです。いわゆる敗者のゲームというやつですね。

仮想通貨のようなまだまだ未熟な市場(アマチュアの戦い)では、多くのプレイヤーがまだ未熟なので、できるだけ失敗をせずに守り抜いて生き残ることを意識しています

失敗しないで事業を続けていくと、他の人が失敗して沈んでいく中で生き残ることができて、相対的に上昇することができます。

攻めるのは本当に機が熟してからで良いんです。そもそも攻めるチャンスは生き残っていなければ来ないので、とにかく生き残ることです。

この法則は私が過去に株取引や金融ビジネスでの経験上、理解していることです。個人の株のトレーディングであれば自分が損するだけで済みますが、会社でやってしまうと、自分だけではなく会社が抱えているお客さんにも迷惑をかけてしまうかもしれません。

もちろんビジネスをやるからには、その領域で1番を目指さなければいけません。しかし1番になるのは最後で良くて、今がそうでなくても、致命的な失敗せずに継続していれば、徐々に順位は上がっていくと信じています。

本当の革命はパブリックな仮想通貨

−これから仮想通貨やブロックチェーンはどのように活用されていくと思われますか?

もちろんこれにはいろんな意見があるのが前提で、あくまで私自身の考えではありますが、個人的にはブロックチェーン自体の興味は仮想通貨に比べれば低いです。

もちろんブロックチェーンにも可能性があるとは思いますが、私はそれよりもブロックチェーンなど複数の要素技術が組み合わさって生まれた作品である仮想通貨に大きな興味があります

私が衝撃を受けた「電気自動車」には3つの決定的な要素技術があります。

「バッテリー」「モーター」「インバーター」です。この組み合わせではじめて電気自動車ができるのです。

では、ビットコインは何で構成されているかというと、大別すると「ブロックチェーン」「コンセンサスアルゴリズム(PoW)」「公開鍵暗号」です。私からするとそれぞれは単なる要素技術にすぎません。

本当の革命はパブリックな仮想通貨にあると思っています

「ブロックチェーンがすごい」と言うのは、電気自動車で例えれば、電気自動車がすごい、でなく、「バッテリーがすごい」と言っているようなものだと思っています。もちろんバッテリーと同様に、ブロックチェーンが産業にもたらす影響は大きいですし、いろんな分野で応用が試されることでしょう。

しかし私は、ブロックチェーンを含む複数の要素技術で構成されたトータルの作品である仮想通貨の方が社会全体に与えるインパクトは大きいと思ってます。

ガソリンとエンジンでしか動かないと100年間言われていた自動車がバッテリーとモーターで動くようになった時と同じくらい、これまでは不可能だと思われていた「誰でもP2Pでの価値の移転が」できるようになったことには衝撃だと思っています

次ページ「少額決済が可能になり、モノの売り方が変わる」へ

少額決済が可能になり、モノの売り方が変わる

−具体的に仮想通貨がどのような影響を及ぼすと思われますか?

マイクロペイメントの領域は非常にホットだと思います

冷蔵庫の平均的な単価は平均11万円です。今までは、本体の値段を一括で購入する以外にそれを手に入れる方法はありませんでした。

しかし、今はセンサー、ネット、仮想通貨があります。

平均的な家庭は冷蔵庫の1日あたりの使用頻度は平均35回、冷蔵庫の平均寿命は平均10年程度と言われています。とすると、1回あたりの使用料は0.86円となります

1回の使用ごとに0.86円課金することができれば、インフレを考慮しないとすると、冷蔵庫の提供者側も11万円で1台丸々を売る場合と同じようなエコノミーを回すことができます。最初に全額で売り切る必要がなくなります。

このような1円未満の超少額決済や送金はこれまでの仕組み上、実現不可能でした。しかし仮想通貨の特性を活かすことで、このような超少額決済・送金も可能になります。こうなると、モノやサービスの売り方が変わります。

大学卒業生が4月から新居を探して洗濯機と冷蔵庫とテレビを30万円で購入する、といったことも必要なくなります。デフォルトですでに家に設置されていて、使用量に応じて課金することができるからです。

現代社会には経済的な格差があり、物が満たされない人が多くいます。超少額決済はそのような人にも物の提供を可能にし、物質的な格差が是正されるはずです。

今の仮想通貨は投機のイメージが強いです。今はそれでもいいのですが、後々社会にいい形でフィッティングさせることが必要になります。技術の問題で、現時点ではスマートに使うことができないかもしれませんが、もう少したてばストレスなく使えるようになるでしょう。そうなるとモノの売り方がガラッと変わることになります。

よく思うことなのですが、既存の金融システムで不便なくできることは、わざわざ仮想通貨で行う必要はありません。仮想通貨でしかできないことを仮想通貨ですればいいんです。その一つの領域は、超少額決済なのではないかと思っています。

将来的には企業が自社商品を利用してもらう際の通貨として独自トークンを発行するのではないか、と思っています。例えば、SONYが自社製品を使用量に合わせた課金システムを作る場合、SONYコインを作るだろうということです。

飛躍するステップとしての仮想通貨取引所

しかし独自トークンを使って決済をしたとしても、最終的にはその独自トークンを法定通貨に変換する必要性はなくならないと思います。そこで取引所が必要なんです。

私たちにとっての「ビットバンク」という取引所はあくまで将来へのステップでしかありません。仮想通貨が広まったとしても結局最後には法定通貨に戻す必要がありますから。仮想通貨を応用して今までにできなかったことをして社会にメリットを出す、というのを「ビットバンク」でやっていきたいです。

仮想通貨取引所は、インターネットでいえばプロバイダーのようなものです。ゲートウェイになっているため必須なファンクションであり、なくなることはありません。しかし、いずれ多くの業者が参入して利益が出せない領域になってきます。

仮想通貨が発展すると、取引所は機能として必要なため無くなりませんが、マイナーな存在になっていきます。

インターネットでいえば、ECや広告のように大きく発展する領域が仮想通貨にも出てくるはずで、その代表例が独自トークンや超少額決済といった領域だと思います。

ビットコイン市場はまだまだ伸び代がある

−仮想通貨の価格はどうなると思われますか?

はっきりとは言えませんが、ビットコインは残るし、その価格は上がると思います。
なぜなら前述のように、まだ発展の伸び代がかなりあるからです。

ビットコインの時価総額は現在約15兆円(2018/8現在)です。

ビットコイン=お金のインターネットであると思いますが、もし、いわゆるインターネットの価値が15兆円の価値だとしたら、どう思いますか?それでは安すぎませんか?

トヨタ自動車は23兆円の時価総額があるんです。もしインターネットが15兆円で買えるのであれば、自分であれば、迷わずトヨタ自動車でなくインターネットを買います。

ビットコインが情報のインターネットのインフラと同じような機能を果たすときに、15兆円の時価総額は安すぎると思います。これからコミュニティが育って多くの利用事例が出てくれば、その価値も自然と上がってくると思います。

しかし現段階ではまだ技術進展状況、社会とのフィッティング、法律などの課題があり、社会に認知され、普及していくには数年間必要だと感じます。

インターネットを使っているときにTCPIPやHTTPなどのプロトコルを使っていると意識することがないように、仮想通貨も意識されないレベルに当たり前のものにならなければいけません。ビットコインやイーサリアムというプロトコルが動いているらしい、くらいしか知らなくても安全にみんなが予想した通りの動作ができるようにならなければいけませんね。

これから2〜3年くらいで色んなサービスが出てきて、みんなが「便利だから使う」状態になると思うので、そこからですね。

本メディアの記事は投資を促したり、特定サービスへの勧誘を目的としたものではありません。また仮想通貨などの投資にはリスクがあります。十分にその点を考慮し、読者の判断で行ってください。本メディア、執筆者、幻冬舎は本メディアの情報において生じた一切の損害の責任を、負いません。

インタビュー第1回はこちら「初めてインターネットに触れた時と同じ感覚」ビットバンクCEO廣末紀之がビットコインに惚れ込んだ理由/廣末紀之インタビュー(1)

(編集:飯田諒

この記事の著者・インタビューイ

廣末 紀之

ビットバンク株式会社 代表取締役社長 執行役員 CEO 野村證券にてキャリアをスタートさせ、その後スタートアップ経営に長年携わる。 GMOインターネット株式会社常務取締役、株式会社ガーラ代表取締役、コミューカ株式会社代表取締役などを歴任。 その後、ビットバンクを創業。