オタクイベントでもアプリ決済が浸透する中国上海「BILIBILI WORLD 2018」レポート

財布を取り出すと驚かれる国

「支払いは何で行いますか?」

そう聞かれて財布を取り出すと、一瞬ぎょっとした顔をされる。上海のとあるレストランでの光景だ。上海市民はアプリ決済で支払いを済ませるのが一般的だ。そういう世界だから仮に現金で支払う時は、日本で「電子マネーで」、「カードで」、と申告するのと同じ感覚で「現金で」と答えるらしい。

「BILIBILI WORLD 2018」へ

さて、私が招待されたのは7月に開催された中国のエンターテインメントプラットフォーム「bilibili動画」のイベント「BILIBILI WORLD 2018」だ。3日間にわたる同イベントでは連日多くの若者が会場につめかける。

今回の会場は上海万博会場跡地である上海世博展覧館。2フロア、3エリアにまたがる同イベントの規模の大きさに圧倒される。イベント終了後にはメトロ最寄り駅の「中華芸術宮駅」で規制が敷かれ、特定方向にしか進めなくなるほどだ。

イベント当日の朝、この最寄り駅に到着すると、このイベントに向かうと思われる若者の集団に早速遭遇した。ショッピングモールもあるこの駅はイベント参加者以外の利用者も少なくないが、私がこの若者たちをイベント参加者だと判断したのは、中国版ボーカロイド「V Singer」のキャラクターのコスプレをしていたからだ。

会場に近づくにつれ、コスプレをする若者の数が増えていく。日本の類似イベントとは違って、中国では参加者は家からコスプレをしていくのが一般的なようだ。セーラー服、日本のアニメや漫画のキャラクターなどコスプレの種類は多岐にわたる。

中国人女性には化粧をする習慣がないが、コスプレをする若者たちに限ってはそうではないらしい。可愛らしい女装コスプレイヤーとすれ違いつつ、会場入り口にたどり着く。

イベント入場口は一般用とVIP用とに分かれていた。チケットゲートの担当者から教えられるままにVIP用入り口から入ろうとすると、ここからは入れないという。どうやらVIPチケットも2種類あって、電子チケットと紙チケットの入場口が異なるらしい(因みに私が見た限りでは一般用チケットは全てQRコードの電子チケットになっていて、スタッフが専用の機械で読み取っていた)。

ようやく会場に足を踏み入れると、人の数、会場の広さに驚かされる。会場には様々なステージが設けられ、その様子がBILIBILIのサービスによって生中継されていた。日本のアーティストによるライブパフォーマンス、トークショー、現地のユーザによるパフォーマンス大会、そのいずれにも会場の参加者だけでなく動画の視聴者からも熱いコメントが寄せられていた。

オタクイベントの会場でもQRコードで支払い

会場では物販も賑わっていた。日本からもいくつもの企業が出展し、その取扱商品一覧には「完売」の文字が並ぶ。ここでもアプリ決済での支払いが浸透しているようで、QRコードから支払いを行う若者の姿を数多く目撃した。

アプリ決済はさまざまな企業の展示ブースでのサンプル品の配布にも活用されていた。イベント会場内に設けられた自動販売機の液晶パネルを決められた手順で操作するとQRコードが表示される。利用者がこれを読み取ってスマホに送られたパスコードを自動販売機に入力すると、サンプル品が入手できるという訳だ。

アプリ決済の利用には口座情報の紐付けが必要らしいから、サンプル品を何度も貰いなおすことがほぼ不可能になる。企業側がサンプル品を手に入れたユーザ情報を確認することができるのであれば、さらなるマーケティングに繋げることも可能だろう。

イベントに参加してみて、日本との文化の流行のラグは殆ど感じられなかった。もちろん好まれる作品やキャラクターの傾向には地域差があるようだが、日本で流行している作品は一通り会場で目にすることができた。

イベント終了後、メトロを使ってホテルに戻る。敷地内にあった24時間営業のコンビニに入ろうとしたところで、入店を阻まれてしまった。どうやら入店するには専用のアプリが必要らしい。

加速する中国

噂には聞いていたが、中国上海のイベントに参加して、改めてこの国のアプリ決済などのデジタルインフラが日本より進んでいることを実感した。

そして「BILIBILI WORL」の出展ブースや物販の盛り上がりを見て、中国における「オタク文化」のさらなる成長の可能性を肌で感じることが出来た。ただ会場付近では一般人によるチケットの転売が横行していたり、ライブイベントでは公式ペンライトではなく他作品のペンライトをジャンル関係なく複数持ちしたりするなど、日本のオタクイベントでは見られない、モラル面の課題がまだあるようだ。

しかし中国の整備されたデジタルインフラが「オタク文化」の成長を加速させる一つの要因になることは間違いないだろう。

この記事の著者・インタビューイ

阿武志信

株式会社幻冬舎コミックス ライツ部 早稲田大学政治経済学部卒業。マルチリンガル。 国内外のオタク文化、文化の移動、定着に興味があります。