新規コイン上場は? USDCは? セキュリティは?「コインベースに訊く、日本戦略」北澤直氏 インタビュー

コインベースに訊く「日本戦略」

米ナスダック証券市場上場の暗号資産取引所コインベース(Coinbase)が、8月に日本でのサービスを開始した。米国大手取引所の参入に、ついに黒船が来たと業界内外で話題を呼んだ。

またコインベースはビットコインやイーサなど約550億円相当の暗号資産を購入する投資方針なども8月に発表しており、暗号資産経済(クリプトエコノミー)を牽引する企業として、世界中から注目されている。

そんなコインベースは日本市場ではどのようにサービスを展開していくのか、日本法人、Coinbase株式会社の代表取締役社長 北澤直氏に語っていただいた。 

Coinbase株式会社 代表取締役社長 北澤直氏

コインベースの日本戦略 

−これから日本のユーザー獲得のために、どのようなアクションを予定していますか?

私たちはプロダクトのクオリティを高めて安定させることが重要だと思っています。

米国でコインベースがユーザーに選ばれた理由は、クリプトの関心度が高まった時にワードオブマウス(口コミ)でユーザーにその利便性が広がっていったからです。このプロセスはサンフランシスコテック系企業のよくあるサクセスストーリーです。

当然、日本でも他社のプロダクトと比較し学びながら、しっかりとユーザーに私たちのプロダクトを認知していただく必要があります。そこで重要なのが、プロダクトの「信頼性」と「使いやすさ」です。

すでに「信頼性」に関しては、これまでのグローバルの実績としてセキュリティやコンプライアンス対応は問題ないと思いますし、日本では三菱UFJフィナンシャル・グループさんと連携することでの、「信頼性」の補完もあると思っています。

ただプロダクトの「使いやすさ」に関しては不断の努力が必要。現状に問題があれば、そこはすぐに直して「コインベースは日本でも使いやすい」と評価され続けるところまで作り上げていきたいと思っています。

米コインベース提供サービスの日本展開は?

−日本でも「コインベースプロ」のような、上級者向け取引所機能の提供予定はあるのでしょうか?

足元では提供する予定はないのです。ただ私たちは、プロダクトの仮説・検証のためにはお客様の声しかないと思っています。だから私たちはツイートなども含めお客様の生の声を定量的に分析するチームを持っています。

今後お客様のリクエストが多ければ、「コインベースプロ」の提供も、もちろん検討していくことになると思います。

−今後の新規トークンの上場に関する意向を教えてもらえますか?

まず日本で既に取り扱いがあり、かつコインベース・グローバルで上場しているトークンは可能な限り、順次加えていきたいと思っています。このプロセスには様々な手続きがありますので、それを経て対応していきます。

そして米国で上場済みで、まだ日本では取り扱いがないトークンについても、日本のお客様に届けられるように頑張っていきたいと思っています。

先ほども話しましたが、コインベースはグローバルにお客様の声を聞き続けるスタンスです。だから日本のお客様からも将来性あるトークン、DeFi、NFTなどに関して声を届け続けて欲しいですね。

当然、日本のお客様の声は米国コインベース本体に届けて、議論できる状態にします。そういう意味でも、コインベースがトークンのスクリーニングアウトをすることは大事だと思っています。

−米ドルステーブルコイン「USDC」は、日本でも取り扱うのでしょうか?

今は取り扱う予定がないですが、法的な枠組みやユースケースも含めて、ステーブルコインは私たちがしっかり検討したいものの1つです。

ステーブルコインは暗号資産の分かりやすいユースケースの1つだと考えてますので、引き続き積極的に日本での導入の可能性を検討していきたいと思っています。

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日本企業の暗号資産保有の可能性は? 

−米国では上場企業や機関投資家の暗号資産保有が進んでいますが、日本にもその流れは来るのでしょうか?

あきらかに米国ではこの1、2年で機関投資家の暗号資産市場への参加が顕著になっています。一方でおっしゃる通りまだ日本では、機関投資家の方々の取引高が重要な部分を占めてるという状況ではないですよね。

一般的に機関投資家は投資対象としての資産をある程度定義づけ、アップサイドのみならずダウンサイドを確認できて、市場参加していきます。その意味では日本で近年ハッキング事件が起きたことも影響しているかもしれません。また法的な枠組みの整備も必要です。

ただ、それはある意味伸び代だと思ってます。

現在は上場企業の株主などの投資家が、個人マネーで暗号資産に投資しはじめている段階ではないかと個人的に考えてます。

だから日本でも上場企業や機関投資家が株主などステークホルダーの信任をちゃんと受け、投資する腹落ちがができれば、実行されるという状態だと思っています。

だから今後、日本にも米国のような流れは来ると私は考えています。

−米国コインベースは多くの企業の暗号資産購入等をサポートしていますが、日本でもその事業を行なっていく予定はありますか?

もちろんあります。私たちの「経済的自由を世界中で高めたい」というミッションに関しては、地域にも関わらず実行していきたいです。

日本でクリプトエコノミーに寄与する企業様や、全体的な観点から私たちのミッションに通じるような方々をサポートすることは当然考えたいです。

コインベースのセキュリティについて

−日本のコインベースは、米国と同じセキュリティシステムを使うのでしょうか?

米国と同じセキュリティシステムを使います。

日本のコインベースは国内で担当者、専門家を置いてオペレーションする一方で、グローバルリソースをしっかりと使うという仕組みになっています。

具体的にそのような仕組みで、どう安全で高いセキュリティを日本に展開するか、金融庁としっかりと議論してきました。その結果、私たちがグローバルでやりたいと思っている形を日本でも展開することができたと思います。

セキュリティの話なので具体的なことを言えないのは非常に歯がゆいのですが、そこには本当に自信を持っております。

実際にコインベースはこれまでに物凄い数の攻撃を受け続けてきましたが、一度も資産を外部に流出したことはありません。

もちろん日本でも同じレベルのセキュリティ水準を提供できると自負しております。

またあくまで仮にですが、米国のコインベースに何かあった場合でも、日本のお客様の資産に影響が出るようなことがないようにその辺りの仕組みもしっかりと作っています。

日本の規制について

−コインベース日本法人は、2018年に日本で法人を作ってから、サービス開始まで約3年間、日本の規制当局と色々な調整をしてきたと思います。日本の暗号資産規制に関してどのように評価していますか?

日本は世界でもいち早くクリプトを法制度化して真正面から取り扱った国です。その後いろいろありましたが、ちゃんと失敗を活かし、新しく法制度化していくためのしっかりとした枠組みも作りあげてきたと思います。 

また日本は顧客保護やマネロン対策にも真正面で対応しており、世界で比べても先進的だと思っています。

米国はレギュレーションの考え方が日本と違います。日本がルールベースで、アメリカは重要なポイントをピックアップしながらレギュレーションを作っていくスタンスです。

そのため未だに米国ではクリプトの取り扱いをどうするかに関して、各当局での考え方の違いがあり、現在インフラ法案のような議論も出てきています。そういった意味でも、日本は先行していると感じています。

だからコインベースが日本参入に時間がかかったことに関して、私たちはあまり違和感がありません。CEOのブライアン・アームストロングも、この何年じっくり待ってくれて、僕がレギュレーターと真摯に向き合い話すことを歓迎してくれました。

取材/執筆:竹田匡宏(あたらしい経済)
編集:設楽悠介(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。