ブロックチェーンネイティブ時代の日本の若者は、世界を変えられる/渡辺創太インタビュー(3)

特集 シリコンバレーのブロックチェーン企業で働く大学生、世界へ挑戦

渡辺創太

シリコンバレーにある世界有数のブロックチェーン企業Chronicled(クロニクルド)で社員として働き、帰国後は国内最大の20代によるブロックチェーンコミュニティでも活動している慶應義塾大学在学中の渡辺創太氏。そんな渡辺氏にこれからの日本のブロックチェーンと若い世代の可能性について語っていただいたインタビュー、第3回(最終回)。

シリコンバレーから帰国後の活動

—現在、日本ではどういう活動をしているんですか?

主に3つの活動をしています。

1つ目に、クリプトエイジ(CryptoAge)という団体で活動しています。これは若者中心のブロックチェーンのコミュニティです。

2つ目に、今も僕は日本にいながらクロニクルドの社員として働いています。

そして3つ目は、Cryptoeconomics labという会社にも参加しています。この会社はPlasmaというイーサリアムのスケーリングソリューションに取り組んでいて、落合渉悟さんをはじめとした日本トップクラスのエンジニアたちとディスカッションしたりしています。この会社はすごくオープンで、Cryptoeconomics Researchというサイトをオープンで運営するなどしているので、開発者の方は必見だと思います。

僕がサンフランシスコにいた当時、ブロックチェーン領域のスタートアップで仕事している日本人は僕含めて数名しかいなかったんです。だから知人を通じてCryptoeconomics labに招待してもらい、帰国してからも参加しています。

世界で戦えるブロックチェーン企業を日本から輩出したい

クリプトエイジはどのような経緯で入ったのでしょうか?

クリプトエイジは2017年1月に大日方祐介(Obi)さんが設立しました。Obiさんとは僕がシリコンバレーに行っている時から話しをしていたんです。5月に僕が帰国してから、日本でもブロックチェーンについてもっと議論できる場が必要だと思い、クリプトエイジに参加しました。

今は東京だけでしか活動していないですが、最終的には日本全国に広げたいと思っています。バークレーやスタンフォードのような世界トップレベルの大学なら単体で勝負できると思いますが、日本は特定の大学だけでは無理で、オールジャパンでやっていかないと、今後の20年30年を見た時に日本経済が出遅れてしまうと思っています。

コンピュータのOSではTRONというプロジェクトがあったけれど、惜しくも負けてしまったし、インターネットも村井先生がいますが、全体としては出遅れてしまった。AIもデータ量が圧倒的に違うのでもう勝てる可能性は少ないという状況です。しかし、ブロックチェーンはまだ勝負が決していない。

その上、日本は仮想通貨の浸透度がもの凄く高いですし、Dapps(分散型アプリケーション)を使用する土壌が整っていて、これはかなりチャンスだと思います。

このチャンスをものにできるかできないかは、コミュニティとしてどれだけ盛り上がれるか、産学官連携でこの流れを進めることができるかが、全てだと思っています。

—そのような状況の中でクリプトエイジをどういうコミュニティにして行きたいですか?

今の20代は、ブロックチェーンが生まれて初めてのテクノロジーのブームとなり、チャンスの世代なんです。

パーソナルコンピュータならマッキントッシュのチーム、インターネットで言うとマーク・アンドリーセンが作ったネットスケープ、彼らは当時20代でした。

クリプトエイジの目的は、20代を中心に新しいモデルを打ち出しながらブロックチェーン業界自体を盛り上げていくことです。最終的には世界で戦えるブロックチェーン企業を日本から輩出したい。それが僕の中での全てですね。

日本ではもっと長期的なビジョンでブロックチェーンを考えることが必要

—素晴らしいですね。その点で今の日本にはどういうところに課題がありますか?

今の僕たちに必要なことは、地に足つけながら長期的なビジョンでブロックチェーンを考えることだと思います。

現在はスケーラビリティの問題を解決するフェーズですが、その次にプライバシーの問題が出てきてそれを解決して、またその後に他の問題が出てきて解決してといったように、ブロックチェーンのテクノロジーは指数関数的というよりは一次直線の進化をします。

ですが日本では、現状でブロックチェーンができることと、できないことを把握せずに、根も葉もない期待が独り歩きしている印象です。

例えば、現段階で大企業や国が要らない分散化社会が訪れるかもしれないとなどとよく言われますが、中央集権的なものを全て無くすのは無理だと思うんです。分散しすぎていても駄目だし集権的すぎても駄目だと思います。全てはバランスだと思うので、ブロックチェーン自体も両者がほどよく組み合わさったものが生き残るはずです。

噂に流されるのではなく、技術の進化をしっかりと理解した上で、10年とか20年後を見据えた長期的な議論をもっとしていかないといけないと思っています。

—その中で日本のブロックチェーンはどの領域から発展していきそうですか?

ゲームとエンタメですね。

理由は、日本という国はもともとゲームが強いからです。アニメやマンガなどのコンテンツ産業も圧倒的に強いので、仮想通貨のリテラシーを持っている人達から、良いコンテンツが出て来れば急速に発展して行くと思います。

一方で、世界的に見て市場規模が大きくなるのは金融とかサプライチェーンの領域ですね。そっちに対して仕掛けていく人も必要だと思っていて、その領域に入って行く若い人たちを増やして行きたいです。

無知であることで、ブロックチェーンドリブンのビジネスを展開できる

クリプトエイジが若い人たちに特化している理由は、ブロックチェーン業界では無知であることが重要だと思うからです。

ある程度既存の業界知識があると既存の枠組みで物事を考えてしまい、ブロックチェーンを既存のところに使ってどう改善していくかという頭の使い方になります。でも知識がないとブロックチェーンそのものを純粋に見ることができます。無知であるからこそ、「ブロックチェーンネイティブなものは何か?」という視点を持つことができます。

例えば、スマホ時代でいうと、メルカリが出る前にヤフーオークションがありました。メルカリが始まった時に、「それヤフオクでいいじゃん」と言う人もかなりいた中でメルカリが勝った理由は、スマホドリブンだったからですよね。

既存の人たちはすでにあるオークションサイトをどうやってスマホに変えるかという発想だったけれども、メルカリはスマホからどうオークションに持っていくかという逆の発想だったのだと思います。

ブロックチェーンも同じように、ブロックチェーンネイティブとしてアプリケーションを構築していったところが将来的に成功事例になると思います。

It’s our time !

クリプトエイジのイベントではほぼ毎回「It’s our time ! (僕たちの時代だ!)」と言って、みんなで盛り上がっています。コンピュータ、インターネット、スマホアプリ、ディープラーニングなどの領域は僕らの世代から初めても比較的遅いと思います。ですが、ブロックチェーンだったら、僕たちが先駆者になれると思います。

一方で、僕も含め、メンバー全員まだまだ若いので、長年研究している人の知識を借りたりしながら活動をしたいですし、業界全体としても産学官の連携が凄く大事だと思っています。

アメリカでは、規制がイノベーションを加速させています。例えば、規制によって医療のサプライチェーンのプロダクトは全部電子上で管理しないといけないとなると、みんなブロックチェーンを使わざるを得なくなります。規制が加速していて、かつ学問的なバックグラウンドのあるアカデミックな人たちがしっかりアドバイスできる体制がアメリカにはあると思います。

日本だとブロックチェーン業界はまだまだ産学官連携できていないです。産学官の連携でこの状況を打破できれば、もの凄く面白いものが生まれると思っているので、クリプトエイジでそこを目指して行きます。

(おわり)

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第1回はこちら「シリコンバレーのクロニクルドで学んだブロックチェーンの可能性」
第 2回はこちら「シリコンバレーではブロックチェーンを長期スパンで捉えている」

編集:竹田匡宏(幻冬舎)・伊藤工太郎(幻冬舎)

この記事の著者・インタビューイ

渡辺創太

Astar Network・Stake Technologies CEO/Founder 1995年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国、アメリカでインターンシップ活動を経験後、2018年シリコンバレーのブロックチェーン企業Chronicledに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て、Stake Technologiesを創業。同社でパブリック・ブロックチェーン「Astar Network」を立ち上げる。日本ブロックチェーン協会理事や、内閣官房Trusted Web推進協議会のタスクフォースメンバー、株式会社丸井グループのアドバイザーも務める。2022年、雑誌『Forbes』の「Forbes30 Under 30 Asia」に選出される。

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