「Ethereumとの出会いから現在」イーサリアム財団エグゼクティブディレクター宮口あや氏インタビュー(1)

特集 動画と音声と文字で学ぶ「あたらしい経済」

宮口あや

動画と音声と文字で学ぶ「あたらしい経済」

読者の方のニーズに合わせてコンテンツを提供する企画「動画と音声と文字で学ぶあたらしい経済」。ブロックチェーン/仮想通貨(暗号資産)のキープレイヤーを取材し、さまざななメディア形態でお届けします。今回はイーサリアム財団エグゼクティブディレクターの宮口あや氏のインタビューをお届けます(第1回/全3回)。

イーサリアム財団エグゼクティブディレクター 宮口あや氏 インタビュー #1

イーサリアム財団(Ethereum Foundation)エグゼクティブディレクターである宮口あや(Aya Mitaguchi)氏に「Ethereumとの出会い」「Ethereum財団やコミュニティの活動」「Ethereum誕生から4年を振り返って」について語っていただきました。

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Transcript

竹田:今回のインタビューではこれまでのイーサリアムの歴史と、分散っていう言葉、そして今後宮口さんとイーサリアムの未来について、この3つを主に聞いていきたいと思います。まず宮口さんがいつイーサリアムと出会ったんですか?

宮口:私がまずイーサリアムのクリエーターのヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)に会ったのは、彼がイーサリアムを作る前で。2013年の終わりころです。

最初に彼に会ったのは実は、前に属していたクラケンのサンフランシスコのオフィスなんです。その頃はビットコインのコミュニティも今に比べたら全然少なくて、ブロックチェーンとかもすごく小さいコミュニティだったので、みんなが助け合うようなところがありました。

彼はその当時「Bitcoin Magazine」のライターをししながら世界中を旅していました。そして今までのビットコインにない部分でどこを改善したらいいかっていう発想からイーサリアムっていうものを作り始めたんです。

彼がその旅の中でサンフランシスコを訪れている時に、当時私が勤めていたKraken(クラーケン)のオフィスで2週間くらい滞在している時があって、実はそこでイーサリアムのホワイトペーパーを書いていたっていう。

実はそのことは去年本人から聞きました。「あの時ひょっとしてイーサリアム作ってた?」って聞いたら「そう」って。その時彼に初めて出会いました。ただ何に実際取り組んでいるのか、その時は深い話はしませんでした。彼は今よりも無口でしたね。かなり変わっている感じがする無口な天才少年っていうイメージでした。

そして彼がイーサリアムを作った時に、Krakenがトークンローンチとかを手伝いました。だから私もイーサリアムのチームと近いところにいたので、そこで技術のことははじめて知りました。

そこから業界の一人として、私もイーサリアムの活動を追っていくようになりました。イーサリアムができた時にブロックチェーンの可能性が一気に広がったので。

私もともとブロックチェーンに興味を持ったのは、ビットコインというものがマイクロファイナンスに役に立つのでは想像したところからでした。でもイーサリアムはお金の部分だけじゃない、さらにもっと色んな事ができるっていう可能性を広げたところで面白いなって思って見ていたんです。

もともと自分のパッションがあり、イーサリアムに近いことをしたいと思っていて、Krakenを離れて色々なことを検討している時に、直接ヴィタリックとコミュニケーションをしていたわけではないんですが、彼の周りの人達が私が空いているっていうのを聞きつけて、「これまでの活動とこれからイーサリアム財団にとって必要なことを考えて、ちょっと助けてくれないか」っていう話をいただいたんです。

その話が来たのが実はメキシコであった「Devcon3」の時だったんです。私はその時もうすでに他に色々考えていることもあったので、どうしようかなと迷い、すぐにyesとは言わなかったんです。

でもイーサリアムには自分のしたいことに繋がることでもあり、さらにちゃんとイーサリアムが動いてくれないとブロックチェーンの色んなものが動かないので、そこをサポートするのに関わるのはいいかなって思って「じゃあサポートしてもいいよ」という軽い気持ちで引き受けたんですけど(笑)。

その時はイーサリアム財団がなんなのかって、私だけじゃなく多くの人にとってちょっとミステリーなところがあって。今でもミステリーかもしれなんですけど。その時は結構どのくらい大変なのかっていうこともわからずに、引き受けたんです。

あとヴィタリックに「Executive Directorって何やるの?」って聞いた時にすごいシンプルな答えしか、「これとこれとこれ」くらいしか言われなかったので、騙されたかのようなところもあるんですけど(笑)。彼はもちろん騙すつもりはなかったんですけど、彼は研究者なのでそこまで詳しくわかってなかったっていうのがあるんです。

私はそれまでもイーサリアムの今までの活動とかコミュニティの雰囲気っていうのは見ていたので、気持ちとしてはファンというかサポーターであったので、それからどうしようかと活動を考えていきました。

竹田:その当時の宮口さんの社会に対するビジョンっていうのは、どういうものだったんですか?

宮口:「あまり私人生でビジョンが変わってない、ブレてない」って、この前友達に言われて、「そうか」って思ったんですけど。元々私高校教師で、やっぱり教育とかもそうなんですけど、「どうなったら世の中がフェアになるか」というところに興味があって。

ブロックチェーンってもともと、力を分散させて、不均衡をなくすことができるので。それが私のブロックチェーンのビジョンであり、イーサリアムも元々作っているコアなメンバーたちはそこにパッションがあったっていうので、一緒にやっていける感がありますね。

竹田:なるほど。では他の通貨も分散っていうことを考えているプロジェクトがすごく多いのかなと思うんですけど。あやさんはなぜイーサリアムを選んだんですか?

宮口:どれにするかっていう意味であれば、すぐ決まったんです。イーサリアムがこだわっている部分が、私が一番ブロックチェーンで目指したいビジョンを大事にしていて、それに沿って技術の決断もしているし、コミュニティの作り方もしているし。イーサリアム財団も今ヴィタリックと一緒にそれを意識してやっているんですが。

例えば「Decentralization」というのはなんなのかって考える時に、これはノードの数が多いから最も力が分散できるんですけども、そのせいでスケーラビリティは大きな課題になっているわけで。

そこでビジョンが違ったら、違った決断をできたし、そっちにいけばお金も儲かったかもしれないんですけども、やっぱり成し遂げたいことがそこにあって、そこがブレないのはやっぱり作っている人達がみんながそう思っているからなんです。

それはヴィタリック一人だけが思っていてもダメだし、でもやっぱり彼がビジョナリーで、ちゃんとそっちに導いてきたからそうじゃない人達は離れていきました。

そのブレない感が、イーサリアム財団に入ったらよりそう思ったんですけど、やっぱりなんとなくの哲学で言っているだけじゃなくて、日々の技術の決断に反映されているので、誰と一緒に物事をするか、技術ではAとBとどっちもできるけど、AなのかBなのか選ぶときに先のビジョンをちゃんと考えて選んでるっていうのがすごいイーサリアムの良いことだなって思っています。

貧しい人達がContributorでみんなボランティアでやっている頃はみんなで「いいよ」と自然にやっていたんですけど、色んなノイズが入ってくるので、その信念を曲げないって結構頑張らないと難しいんですよね。それを曲げずにやってきたから、コミュニティがついてきてくれているということに、私は今も感動するし、素晴らしいなって思ってます。そこをサポートできるんであれば私のビジョンにも一致するんです。

かといって絶対イーサリアムじゃないとというようなマキシマリストではなく、私も含めて私たちの周りの人間はみんな、別にイーサリアムであることが一番大事というよりは、そのビジョンを実現することが大事で。そのためには他の色んな実験が行われていることもいいことだと思っています。

ひょっとしたら同じような優秀な技術が生まれてくることもあると思うんですけど。ただ同じビジョンを実現するには、本当にこだわって、お金に流されないで、大きな勢力に流されないみたいな日々の努力が必要なんです。そこが気持ちよくやれるのがイーサリアムのコミュニティで。

逆に言うと、そうじゃないんだったら私はイーサリアムにいる必要も、ブロックチェーンにいる必要もないっていうのは、自信を持って言えますね。別に私は自分のブランドのためにブロックチェーン業界にいるわけではないので。

私もそうだし、そういう人達と一緒にやれるっていうのは本当にありがたいし、気持ちいいことだと思いますね。それに加え、人生に一度しかないこの大きなイノベーションの中で、一緒に世界の一番優秀な人達と一緒にやれるっていうのももちろんあるんですけど。

竹田:続いては具体的にイーサリアムのコミュニティや財団がどのように日々の仕事をしているのかを教えてください。

宮口:まずイーサリアムのコミュニティですけど、完全にオープンソースのコミュニティなんです。一般の人に簡単に説明すると、まずイーサリアムのプラットフォームがあって、そのプラットフォームの上に分散型のアプリっていうのが作れるんですけど、そのプラットフォームの部分がまだ完全にでき上がっていないんです。もちろん今も使えるんですけど、使いやすく早くっていうようにはまだ出来上がっていません。

だからそのプラットフォームの研究開発するメンバーが集まったのが、最初のイーサリアム財団のメンバーで。例えばそれは単なる開発集団でもいいんですけど、その時に大事にしたのは、これオープンソースなことです。あくまでもどこかの会社1つが全部開発するんじゃなくて、みんなでやっていくことに意味がある。

そしてみんなでやっていくとしたら、これからどんどん大きくなっていくContributorを支える本体や、それからcoordinationする役が必要なので、それをあえて会社にせずにnon-profitの財団にしています。本来なら財団ってサポート役なんですけど、最初はやっぱりクリエーターのヴィタリックがイーサリアム財団作ったっていうこともあり。当初はイーサリアム財団が研究開発のチームだったんですよね。

段々コミュニティのメンバーが大きくなって、いわゆるボランティアのContributorとかもどんどん増えてきて、最初の頃はみんなお金を貰わずにやっていたんですけども、それがどんどん大きくなってきて、今ではいわゆるオープンソースのイーサリアムのプラットフォームの部分も、Decentralizeアプリの部分も、どの部分もイーサリアム財団のメンバーだけでやっているプロジェクトは一つもなくて、全部コラボレーションしています。

うちのメンバーは、一応重要なリサーチのトピックをリードはしているんですけど、他のチームがリードをしているトピックもあり、段々役割がシフトしていて。最初はコアなメンバー=イーサリアム財団だったんですけど、今はそれがもうちょっと広がっているし、ぼんやりしてきていて。

むしろそのぼんやりすることに意味があって、最終的にはオープンソースなんで、技術開発は別にイーサリアム財団のメンバーがいなくても継続できるべきだと、私たちは思っています。財団側としては財団としての役割も本来あるので、それを私が去年の頭に正式に入ってから、ちゃんと財団として機能するように動いています。これからの本当のイーサリアム財団の役割はサポーターとかコーディネーターですね。

いわゆるオープンソースのプロジェクトがちゃんと進んでいくように資金を援助したり、それから「ここのチームとここのチームが一緒にやった方がいい」とコーディネーターになったりなど。

私たちはニュートラルであんまりビジネスのインセンティブがないので。中立的役割として色んなところを繋いだりしていきたいですね。窓口でもあり、リソースアロケーターであるという言い方を最近しているんです。

資金や才能が、どこに不足していて、どこに補充したらいいかを判断して、必ずしも財団がいつも補足しなくていいんですが、他にできるところがあればそのコーディネートをしてあげるたりなどをしていきたいですね。本当はイーサリアム財団の役割は、イーサリアムに関係すること全てなんですけど、ただ全部やる必要はなくてまずはイーサリアム財団でないとできないことに今後はフォーカスしていきたいです。

コミュニティがどんどん大きくなっているので、財団が全部ハイアリングして大きくして中でやるってこともできるんですけど、あえてそうじゃないことに意味があると思っていて。なるべく力を引き算、最近私は日本語の引き算の美学っていう話をよく使っているんですが、そうしていかないとオープンソースの意味もないし、本来のブロックチェーンの分散型の意味もなくなると思っています。

だから日々はオペレーションとしては、今はまだ開発研究者が財団の中にもいるので彼らが、外のコミュニティのContributorと一緒に取り組みながら、オンラインでGithubでやり取りをしながら開発研究を進めています。そして財団の中にはオペレーションチームもあり、そのオペレーションチームの中には助成金のチームもあり、彼らが助成金の技術的なアプリケーションを受けて、技術的なスクリーニングもして決断をするということを一緒にやってます。

それからDevconなどのイベントの運営をするチームもあり、コミュニケーションのチームあります。財団まだ小さいんですけど、私が入ってからそういう役割の人を雇っているので、段々と初期の頃からみんなの役割をシフトしているっていう感じですね。

竹田:イーサリアムが誕生して4年近くですが、最初から宮口さんはイーサリアムのこと、ヴィタリックのことを見てきていると思うんですけど。現状までの観測点として、この4年ってどのようなものでしたか。

宮口:ブロックチェーン/ビットコインができただけでも大きな革命だと騒がれていましたが、私がイーサリアム財団に入る前もそうですけど、イーサリアムはプロジェクトが世の中にあまり売り込んでいたわけではなくて、すごいことが起きたんですけど、売り込んでなかったので、知る人ぞ知るみたいな感じでした。

当時それがどのくらいスゴイかは世の中は実はあまり分かっていなかったと思います。。ヴィタリック自体もすごく謙虚な人なので、彼自身もどのくらいすごいことかってことを世の中に伝えてはいなかったし、多分自分が思った以上にすごいことになったといううのもあると思うんですね。

ただイーサリアムは急にドーンと大きくならなかったからこそ、すごく順調に、もちろん色んなトラブルはなくはなかったんですけど大きくなってきたと思います。そのトラブルが起きてもダメにならなかったのは、やっぱり先ほども話した揺るがないところがあったから。

短期的にはいろんな人から色々ぶつぶつ言われたり文句言われたりするんですが、それに動じな姿勢があるんですよね。私は外から見ていてもそうだなって思ってましたし、実際、中に入ったらさらに自分もそういうメンバーになっていました。いかに小さなノイズを気にしないかみたいのが、イーサリアムのコアな人たちの今でもスゴイなって思うところです。

だからこの5年間の中で、これだけクリプトの値段が上下したりとかってしながらも、開発はちゃんと前に進んできたんです。ICOで資金調達してから着実に前進してきているプロジェクトはなかなかないので、そこはやっぱりすごいことだなと思います。

それはやっぱり最初に考えた技術の力があるからで。もちろんヴィタリックのキャラクターもあるんですけども、イーサリアムは本物がだんだん興味を持って入ってくるっていう感じでした。それを横で見ているのはかなり興奮しました。どんどん本物が…本物というか、ブロックチェーンだからとか、クリプトだからとかっていうのじゃないところで着実にやってこれ他と思います。

だからイーサリアムについては今でこそ騒がれているけど、別に何かが大きく変わったわけではないですね。どちらかと言えば周りがやっぱり変わってきたみたいなのはあります。この5年間それがブレてないというか、5年ってすごい短いようですけど、この業界ではすごい長いので。

大体のプロジェクトは最初に言っていたことと変わっちゃうとか、最初にやっていた人がどっか行っちゃうようなことが多いんですが。イーサリアムはそれがブレずに着実にコミュニティのメンバー集めてきました。だからあまり驚きはないですよね。何が起きてもイーサリアムについては安心して見てられると思います。

※このTranscriptは読みやすいように一部内容を編集しております

(つづく)

→続きはこちら「Ethereumのスケーリングは”今”起きている」イーサリアム財団エグゼクティブディレクター宮口あや氏インタビュー(2)

この記事の著者・インタビューイ

宮口あや

南山大学を卒業、高校教師を務めた後、米サンフランシスコ州立大でMBA取得。2012年に開発途上国の子どもを支援する「TABLE FOR TWO」に勤務。その後、米国の仮想通貨取引所「Kraken(クラケン)」在籍時の2014年に「Mt.Gox(マウントゴックス)」の破産手続き支援を行う。2014年設立の日本価値記録事業者協会(JADA)の創設メンバーの一人。2018年2月、ビットコインに次ぐ時価総額世界2位の暗号通貨であり、ブロックチェーン技術を用いたプラットフォームである「イーサリアム」を支える、Ethereum Foundationに参画。現在、Ethereum Foundation Exective Directorを務めている。2019年World Economic Forumグローバルブロックチェーン評議会委員に任命される。