米ジーニアス法でステーブルコインはどう変わる?
先月17日、米ドルステーブルコインの規制を明確にするジーニアス法案がトランプ大統領によって署名された。同日にホワイトハウスで行われた署名式典に招待されたHuma Finance(ヒューマ・ファイナンス)の創業者であるエルビル・カラマン氏に、ジーニアス法の意義と米ドル覇権の行方、そして日本円ステーブルコインの勝ち筋について訊いた。
Huma Financeとは?
Huma Financeは、貿易金融等を念頭に、規制に準拠した決済基盤を通じて即時流動性とリアルタイム決済を実現する世界初の「PayFi(Payment Finance)」ネットワークだ。これまでに500億ドル超の取引を処理した実績を持つ。従来の金融と分散型金融をつなぐことで、支払いフローに裏付けられた安定的な利回りを提供することを目的としている。将来的には30兆ドル規模とも言われるグローバルな決済市場を対象に、資金移動の仕組みそのものを進化させる革新的なインフラの構築を目指す。
Huma Financeは日本市場にも注目しており、8月に都内で開催されるWebX(8月25日 – 26日開催)やソラナ最大のカンファレンスであるSuperTokyo(8月24日開催) に参加するため、カラマン氏をはじめとするコアチームが来日する。
Huma Finance創業者 エルビル・カラマン氏インタビュー
−−米国ホワイトハウスにおけるジーニアス法の署名式はどのような雰囲気だったか? 誰が出席し、どのような会話が交わされた?
それはまさに、米議会における歴史的な瞬間だった。何年にもわたり規制の明確化を訴えてきた業界のリーダーたちが、その努力の成果を実際に目にすることとなった。Circle、Coinbase、Visa、Tether、Robinhood、Gemini、Chainlink、Solana(Policy Institute)、そしてHumaが主要な業界代表として出席していた。
印象的だったのは、伝統的な金融機関の代表がほとんど招かれていなかったことである。彼らはこの争点において、しばしば対立する立場にあったためだ。この法案は、イノベーターが既存勢力に対して大きな勝利を収めたものと受け止められており、招待者の顔ぶれはその力関係の変化を反映していた。
特に注目された点は、FRBが中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行できないことが法律に明記されたことである。これは、Operation Choke Point 2.0を主導してきた伝統的金融機関や、それに協力してきた民主党系の政策立案者にとって打撃となった。
現在の焦点はCLARITY法案へと移っている。Humaは、規制に準拠したパーミッションレスなDeFiについて、複数の政策団体と議論を行っており、SECのアトキンス委員長から再び議会に招かれ、政策立案者への教育支援を継続している。
−−ジーニアス法の成立を受けて、ステーブルコイン市場はどのように進化していくと考えられるか?TetherやCircleらの寡占状態に、他のUSDステーブルコインはどのように対抗するのか?
現在は「StableSummer」と呼ばれる局面に入っており、これはこれまでの暗号資産市場のサイクルとは本質的に異なるものである。トークンの投機ではなく、機関投資家やフィンテック企業によるステーブルコインの導入や、オンチェーンでの持続可能な利回り戦略が推進力となっている。
ジーニアス法によって規制の明確化がなされたことで、機関投資家の関心はすでに高まっている。アマゾンやウォルマートのような企業も、ステーブルコインを国際的な決済フローに活用することに強い関心を示しており、Humaはそれらのユースケースの実現に向けて取り組んできた。これまでその進展が遅れていたのは、規制の不確実性によるものであったが、現在は明確な道筋が見えている。
今後は、HumaのようなPayFiプラットフォームや、Paxos、M0といった発行プラットフォームが企業との提携を進めていくことが見込まれる。
我々が目指しているのは、TetherやCircleと単に競争することではなく、新しいカテゴリーの開拓を目指している。それは、特定のビジネスエコシステムに対応した企業向けステーブルコイン (corporate stablecoin) を構築することである。
この変化は、一般消費者向けの領域ではなく、企業がグローバルに資金を移動させる手段において現れる。アマゾンやウォルマートは、アジアのサプライヤーに対して年間数兆円規模の支払いを行っており、従来の銀行システムではそれが遅く、コストも高かった。ステーブルコインとその周辺で形成される為替市場を利用することで、ボタン一つでサプライヤーの口座に即時着金できる環境が整いつつある。これにより、企業ごとの24時間365日稼働するマイクロ経済圏が形成される可能性がある。
−−トランプ政権は、ドル建てステーブルコインが米ドルの通貨覇権を強化する可能性があると述べている。例えばベセント財務長官は「ステーブルコインはドル覇権を固定化する可能性がある」と発言しているが、この見方についてどう考えるか?
ステーブルコインがドル覇権を固定化する可能性があるという見方には同意する。しかもそのタイミングは極めて重要である。過去10年間、ドルの国際的影響力は徐々に低下してきたが、ステーブルコインはその流れを逆転させる有力な手段である。
ジーニアス法の本質的な価値は、ステーブルコインがドル建てである限り、ドルの強さを支える存在となる点にある。この法律によって、USDおよびUSDベースのトークン資産に対する世界的なアクセスが前例のないレベルで解放された。
現在、これらの資産に対する需要の多くはアメリカ国外、とくにアジアから来ている。たとえば、日本のサプライヤーがアメリカの小売業者からUSDステーブルコインで即時に支払いを受け取ることは、ドルの実質的なグローバル普及を意味する。
ステーブルコインの採用が進めば、ドル建て資産への需要が高まり、それが結果としてドルの基軸通貨としての地位をさらに強固にする。この構造は、テクノロジーによる金融的なソフトパワーの展開そのものである。
−−円建てステーブルコインの発行を目指す日本企業が増えているが、ドル建てステーブルコインとどのように差別化すべきか?
各国通貨建てのステーブルコインは、それぞれ異なる役割を担う。USDステーブルコインはグローバルな金融インフラとして機能する一方、円建てステーブルコインは地域的な実用性やアクセスの改善に寄与できる。
特に日本とアジア諸国との間のB2B取引においては、円建てステーブルコインが活用される可能性がある。地域貿易の決済において、コルレス銀行に依存しない新たな選択肢を提供できる。
円建てステーブルコインは、ドル建てステーブルコインと競合するのではなく、相補的なインフラとして位置づけることが重要である。円とドルのステーブルコイン間で効率的な為替交換を実現し、シームレスなオン・オフランプを整備することが求められる。
たとえば、日本国内の商取引や特定の貿易関係では、円建て決済のほうが自然である場面も多い。また、複数通貨によるステーブルコイン・エコシステムの一部として、円建てステーブルコインが機能することも可能である。
さらに、円建てステーブルコインはプログラマブルマネーとしての活用も期待される。たとえば、貿易金融やサプライチェーンファイナンスといった複雑な資金フローを自動で処理するようなPayFiのユースケースにおいて、日本の製造業が円建てステーブルコインを活用する可能性は高い。
−−Huma Financeは日本でどのようなビジネス展開を検討しているか?どのようなパートナーを求めているか?
Huma Financeは、国際送金や貿易金融に適した高度なPayment Financeネットワークを提供しており、日本国内においてもそうしたユースケースをSBIなどのパートナーとともに検討している。
また、金融機関との間での流動性提供に関するパートナーシップにも関心がある。Humaのネットワークは、資本提供者に対して高い透明性と柔軟性を備えた短期利回り戦略を提供することができる。
TOP写真:Solana財団 プレジデント Lily Liu氏(左)・Huma Finance 創業者 エルビル・カラマン氏(右)