なぜビジネスに分散型合意システム(ブロックチェーン)が必要なのか/もしも無人島にブロックチェーンがあったなら

特集 もしも無人島にブロックチェーンがあったなら

飯田 諒

ブロックチェーンという言葉をよく耳にするようになりました。仮想通貨の基盤技術という理解しかなく、一体それが何であるのか、またどのような応用方法があるのか、理解できていない人は多いように感じます。

それらを考察するために前提として理解するべきことが「なぜそもそもブロックチェーンが必要なのか」ということです。本記事はどのような経緯・文脈でブロックチェーンが重要なのかというのが非常に上手く描写されている記事「How a Blockchain Can Help You on a Deserted Island(ブロックチェーンは無人島生活でどのように役に立つのか)」を翻訳しました。

元記事を書いたのはOrbs(既存の事業者に対して分散型ビジネスモデルを構築するためのコンサルティングを行うイスラエル企業。複数の巨大ICOプロジェクトのコンサルを務めた。)のCEO Tal Kol氏です。本人からの許可を得て翻訳しています。

映画「Lost」を想像してほしい。飛行機が無人島に墜落し、救助隊がこないまま生存者が島でサバイバル生活を送る話だ。彼らは自分自身で、新たな生活のカタチを作り始める-小さな文明圏(Micro Civilization)の出現である。

人物紹介

Hugoは植物愛好家で、野菜を育てるのが大好きだ。Sawyerは飛行機の残骸から斧になりそうなものを見つけ、薪を作り始めた。Kateは狩りが得意で、野生のイノシシをしょっちゅう捕まえてくる。Jackは飛行機から薬を大量に見つけ出し、体調の悪い時や抗生物質が必要な時に頼りになる人だ。

左からJack(薬を売る)、Kate(狩をする)、Hugo(野菜を作る)、Sawyer(薪を作る)

物々交換の不便さからの脱却を目指して貨幣の導入に挑戦

物々交換の時代が始まった。Sawyerのお腹が空いている時、薪1つをHugoのトマト4つと交換する。Kateは野生のイノシシを20個のトマトと交換する。Jackは1粒の抗生物質を薪4つか、野生のイノシシも受け付ける。

ある朝Jackにこんなアイディアが浮かんだ。「カネという概念を導入しよう。Island Coinという名前のコインを使い、物々交換を卒業しよう。こうすることで、SawyerがJackの抗生物質を必要としていない時もJackはSawyerからから薪を手に入れることができる。」

提案はとてもシンプルで、トマト1粒は2コインに値し、イノシシ一匹は40コインに値する。4人統一で100コインが手元にある状態で始めることにした。

前提として、無人島にいる生存者は貴金属類を入手するのが困難なため、実際のコインを鋳造するのは不可能である。そんな中Jackはコインを鋳造することなくIslandCoinの送金が可能な方法を思いついた。方法は簡単で、4人の所持コイン数が400になるように、各生存者の入出金を記録する紙(バランスシート)を作るのだ。誰かが送金したい場合、Jackにその送金内容を伝えれば彼が送金を記録する。

JackがIslandCoinの発行を提案する

しかしSawyerはJackをあまり信用しておらず、Jackがバランスシートを管理していることが気にくわない。第一、Jackが不正をしていない証拠はどこにあるのだろうか?Sawyerは新たな提案をすることにした。

「PacificTokenを作り、送金をしたい場合はSawyerに伝えて、バランスシートの管理はSawyerが行うことにする」というものだ。

お分かりだろうが、これでは問題が解決しない。見かねたKateが間に入って彼女がバランスシートを管理すると提案した。SawyerとJackはその提案に賛成だったが、今度はKateを信頼していないHugoの反対にあい、それも頓挫した。

メンバーを信頼できないため、貨幣を導入できない

4人は、誰か1人がバランスシートを管理するのは無理だと悟った。画期的な案を出せないまま物々交換のシステムが続いた。モノを媒介する通貨が存在しないため、4人はほしいものがほしい時に手に入らず苦しんだ。しかし、それが今のところ稼働する唯一のシステムなのだから仕方ない。

Kateはもうウンザリした。島の中で一番価値の高いイノシシを唯一手に入れることができるKateがIslandCoinのアイディアを継承してバランスシートを管理し、それを承認しない限りイノシシをあげることはないと他の3人に提案した。どうせ物々交換には飽き飽きとしていたので、3人はそのシステムを承認した。

Kateが入出金を管理するという仕組みで1年が経過し、この仕組みはデファクトスタンダードとなった。Kateは事実上の中央銀行となったわけだ

結局、力を持つKateを軸として動く通貨制度に。

権力による支配に裏付けされた通貨からの脱却ー分散型コンセンサスの登場

物々交換を卒業して、まともに稼働する経済システムが誕生したわけだが、Kate以外の3人は心の底から納得しているわけではない。そもそもKateだけが管理するのはあまり効率的ではないし、彼女が自分に都合のいいように改竄する可能性だってある。

ある日、謎の生存者が出現すると仮定しよう。(「Lost」では実際こんなことがたまに起こる)彼の名前はMr. Nakamotoといい、素晴らしいアイディアを提案した。そのアイディアは「分散型コンセンサス」と呼ばれ、この方法では全員でバランスシートを管理するため、Kateは不正ができなくなった。

そう、Kateだけではなく誰1人として不正ができなくなったのである。

グループの中の誰かが不正をしようとしても、これでみんなハッピーである。もしMr. Nakamotoが最初からいれば、馬鹿馬鹿しい物々交換で1年を過ごす必要もなかったし、Kateの経済的支配を受ける必要もなかっただろうに。

これを聞いただけだと、Mr. Nakamotoのアイディアは無人島で経済を回すための金銭システムに見えるかもしれない。しかしこのアイディアはそれだけでなく、様々な使用用途がある。

Mr. Nakamotoが分散型合意システムを提案

ブロックチェーンの他の使用用途

「競り」を例にとってみよう。

Sawyerは自分の薪を使って居住場所の真ん中に大きな看板を作った。彼はそこにHugoが「今週手に入る野菜」を書いたらいいのではないかと考えたのだ。Kateはこのアイディアをとても気に入り、イノシシが手に入った時はみんながわかるように看板にその旨を書きたいと思った。

ここで、1つしかない看板をどちらが使用するかを巡ってHugoとKateを巡ってケンカが起きた。そこで仲裁役のJackが解決策を提案する。HugoとKateが同じ日に看板を使いたい場合、両者はいくつかのコインを入札額として提出して、その額の大きい方がその日の看板を使えることにする、という案だ。2番目にビッドする人が最初の人よりもほんの僅かだけ多くだして勝つということが起きないように、別々で入札することにした。なかなかフェアに聞こえるが、誰がその別々の入札を仲立ちするのだろうか?Jack自らが名乗り出た。彼が両者のビッドを集計し、正午までにどちらが看板を使えるかをSawyerに伝える。毎朝これをするのは労力がいるので、手数料として1コインをJackがもらうことにする。

このシステムに4人はあまり納得していなかったが、かといってマシな案を出せる人はいなかった。Hugoが特に心配していたのは、Kateが仲介役のJackに色目を使って低いビッドでも選ばれるように仕向けることだった。

ある日、Jackは新たな薬を見つけ出し、それを看板を使ってみんなに宣伝することにした。もちろんHugoとKateはこれに不満を持つわけである。なぜならJackがHugoとKateの入札額を別々に集計し、自分の入札額も提出するのだから。この一連のセリが胡散臭いものとなってしまった。

先ほどの経済システムの話と同じように、一応まともに稼働する入札システムができたわけだが、Jackのみに有利に働くため、最善策でないと言える。ここでMr. Nakamotoの登場だ。彼は分散型コンセンサスの仕組みをこの入札システムにも導入しようとした。全員が入札額のリストを管理するため、Jackが不正をすることはできなくなり、みんなが納得するシステムとなった。

なぜブロックチェーンがビジネスに必要なのか

ビジネスを行う上で、多数の中の誰か1人を信頼しなければいけないということは、その信頼された1人が優位な立場になるという点でシステムに歪みをもたらすことがわかっただろう。しかし究極的には、人は自分の利害を最優先し、お互いに信頼し合うのはほぼ不可能なわけである。信頼が欠如した状態では、人々は「一緒にビジネスをしない」もしくは「大多数の人が納得しないシステムでビジネスをする」のどちらかを選ばざるを得ない。

ブロックチェーンはMr. Nakamotoが提案した分散型コンセンサスシステムを実際に行うための技術である。もし最初からメンバーの誰かがこの概念を知っていれば、軋轢を生むことなくスムーズにビジネスができたことだろう。そして覚えておいて欲しいのが、この技術はただの通貨を支えるシステムではない。私たちの生活の多くの面を改善するものになり得るのだ。

この記事の著者・インタビューイ

飯田 諒

あたらしい経済編集部。 ブロックチェーンをはじめとするテクノロジーが今後の経済をどう変えるのかを考えています。 インタビューを通して人の想いをメディアで伝えるのが好きです。 英語が得意なので、海外コンテンツの配信や外国人インタビューをします。Twitterにてお気軽にご連絡ください。